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犬猫の腫瘍外科の考え方と基礎

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酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 伴侶動物外科学ll 遠藤 能史

第4回 ~犬猫の腫瘍外科の考え方と基礎的な技術~

ベッツワンプレス 2015冬号(Vol.45)

はじめに

 最終回となる今回は腫瘍摘出後、術中や術後に考慮しなければならないことを説明させていただく。

切除後の再建における形成外科
図1、図2、図3

 皮膚や軟部組織の腫瘍の切除計画を立てる際もしくは切除の際に皮膚の再建できるかどうか(皮膚を閉じることができるかどうか)は術者を悩ませる。特に頭部や四肢といった領域は皮膚の余裕も少なく、なかなか大きく切除することが難しい領域である。しかしながら、放射線治療や化学療法に感受性があり、不完全な切除(生体側に腫瘍細胞が残る)であっても術後に残存する腫瘍細胞を根絶する治療が存在する腫瘍は限られている(肥満細胞腫など)。従って、多くの悪性腫瘍は外科的に大きく取り除くことで制御しなければならない。その際、形成外科の技術は皮膚再建において大きく役立つ。詳細は成書を参考にしていただくが、ここではよく使用される方法について簡単に述べる。

 まず、縫合部にかかる張力を減少させる方法として最も一般的なのは皮下織の剥離である(図1)。剥離の際に皮下血管叢をあまり損傷しないよう注意が必要であるが最も簡便な手法である。Walking Sutureは真皮層を拾って筋膜などと縫合することにより皮膚を段階的に伸延させ、切開縫合部に張力がかからないようにする縫合法である(図2)。メッシュ状減張切開は切開傷の両脇に等間隔に切開を加えることで皮膚を伸延させる方法である(図3)。これらの方法は腫瘍を摘出した領域の皮膚を用いて実施できる方法である。一方、それでも閉創が困難な場合は皮弁法を用いる必要がある。皮膚弁には様々な方法があり、皮下血管叢を皮膚側に温存し用いる皮下血管叢皮弁(図4)や皮膚に血液を供給する主要な動脈を皮弁に温存する軸性皮弁法などがある(図5)。皮弁法は大きくできた皮膚欠損部を補充できる有用な方法である。しかしながら、皮弁を作成する領域は本来腫瘍がない領域であることから、腫瘍の不完全な切除により腫瘍細胞で術野が汚染されている場合、皮弁作成領域にも腫瘍細胞を播種させてしまう可能性がある。原則として、完全切除できる手術で用いられるべきであり、完全切除が怪しい場合には、器具やグローブを新品に変更し皮弁を作成し、皮弁領域の閉創を行った後に、腫瘍摘出領域の皮弁を用いた閉創を行うべきである。他にも様々な皮膚再建法があり、上記の方法に加え様々な再建法を工夫することで少しでも切除縁の量を確保し腫瘍を完全切除できるよう努力すべきである。

図4

図5

切除縁(サージカルマージン)の検索

 術者は術前に決定した切除縁で切除できているか、切除縁に腫瘍細胞が存在しないか病理組織学的な評価で必ず確認する必要がある。特に精査してもらいたい切除縁はマージンインク(図6)や墨汁を用いて着色し、病理診断の依頼書には着色した色と対応する部分の解剖学的位置をしっかりと明記しなければならない(図7)。皮膚や皮下織は切除中もしくは切除後に収縮してしまうため、摘出した腫瘍の形態が変化してしまうため底部マージンがどこなのか、水平マージンがどこなのか曖昧になりやすいため注意が必要である。少なくとも、切除を実施した術者が切除した腫瘍の解剖学的情報を最も理解しているはずであり、そのため術者がその情報をもとに正しい切除縁の情報をマーキングおよび明記すべきである。病理診断では切除縁に腫瘍細胞が存在せず、バリアとなる組織で覆われていればマージン完全と診断される。一方、切除縁に腫瘍細胞が存在する場合にはマージン不完全と診断される。切除縁に腫瘍細胞が存在していないが、切除縁に含めた正常組織が不十分な場合、近接していると判断される。近接していると判断された場合は多くの腫瘍で再発するリスクが高まると考えた方がよい。

図6

図7

切除縁の評価がマージン不完全および近接している場合

 マージン不完全の場合はほぼ間違いなく、マージンが近接している場合は腫瘍の種類にもよるが高い確率で切除部位に再発する。従って、局所コントロールを完全なものにするためには追加治療が必要となる。その選択肢としては拡大切除、放射線治療、全身療法が挙げられる。拡大切除は切除縁の病理組織学的評価をもとに、マージンが不完全もしくは近接している領域を必ず取り除く必要性がある。また、手術中に術野が腫瘍細胞で汚染されているため、汚染されている領域を全て取り除く。そのため、かなり広範囲に切除しなければならない。また、一回目の手術による炎症などで組織変性や癒着なども生じているためどこが腫瘍の取り残しなのか、どこが炎症による変化なのか区別しづらく、最終的に疑わしい部位は全て切除しなければならない。放射線治療や全身慮法はそれらの治療に感受性のある腫瘍であれば局所コントロールとして用いることが可能である。しかしながら、放射線治療を実施できる施設はかぎられており、全身療法に感受性のある腫瘍も限定的である。

おわりに

 4回にわたり“犬猫の腫瘍外科の考え方と基礎的な技術”というタイトルで腫瘍外科の初歩について連載させて頂いた。腫瘍の種類や摘出部位、摘出臓器によってさらに細かい考え方や技術があるため、今回の初歩的な考え方や技術を理解・習得し発展していくきっかけになれば幸いである。