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小動物臨床におけるMRI検査入門

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山口大学農学部獣医放射 線学講座 教授  中市 統三

第1回 MRI検査の特徴といくつかの基本事項

ベッツワンプレス 2008春号(Vol.14)

はじめに

獣医領域においてMRIによる画像診断が導入されて以来、10年以上が経過する。導入当時は非常に限られた施設のみでの臨床応用であったが、最近になりその普及がかなり進んでいることは間違いない。MRIによる臨床的な診断は非常に有用であり、獣医領域においてもニーズの高いことがその一つの理由である。今回から4回にわたり小動物臨床におけるMRI画像診断を紹介するが、まず今回はMRI検査の特徴、適応、撮像の原理と基本的な撮像方法、正常像と基本的な読影方法について紹介する。

1 .MRI診断の特徴と適応について

代表的な断層撮影検査として、MRI以外にもX線CT検査がある。最近のCT装置はハード・ソフトの両面において著しく進歩し、広く普及が進んでいる。しかしそれでは、CT装置があれば同じ断層撮影検査のカテゴリーに含まれるMRIの存在意義はどこにあるのだろうか。MRI画像にはCT画像にはない優れた特徴があり、MRIを最大限に活用するためにはその特徴を理解しておく必要がある。

MRIによる画像の最も大きな特徴を端的に言い表せば、“優れたコントラスト分解能”ということになる。画像診断を行いたい領域に含まれる異なる構成成分や病変部位を、画像上の濃淡の差(コントラスト)として描出する能力をコントラスト分解能という(Fig1)。たとえば中枢神経系は灰白質や白質から構成されるが、これらを画像上で区別することや、発生した疾患を描出するためには、このコントラスト分解能が優れていないと難しい。しかしながら一般的なCT装置におけるコントラスト分解能では、これらを十分に判別することは困難であることが多い。獣医領域においてMRI検査を十分活用するためには、この利点を最大限利用する必要があり、そのために中枢神経系疾患の精査を目的とするケースが多い。

Fig1

また中枢神経以外に対しても、疾患の種類によってはMRIを撮像することがある。またヒト医学領域においては、靱帯の描出などを目的として関節疾患などにも臨床応用が行われており、獣医領域においても今後検討を重ねる価値があるものと思われる。しかし現時点で、小動物領域において最も一般的なMRIの利用は中枢神経疾患に限定されているために、今回のシリーズでは神経疾患を対象として稿を進めることにする。

2 .神経疾患の診断におけるMRIの役割

1 )神経疾患の診断におけるMRIの役割
それではMRIによる診断を神経疾患に対して有効に利用するために、我々獣医師が考慮しなければならないことは何であろうか。まずはその適応について、十分な考慮が必要である。小動物領域における神経疾患には、一見すると神経疾患のように思えるが、実は中枢神経以外に原因疾患が存在しているような症例がかなり多い。またたとえ神経症状を示していても、根本的には神経疾患というよりはむしろ別の疾患が神経系に影響を及ぼしている、と考えた方が適切な場合も多い。これらの疾患ではMRI検査は必ずしも適応にならず、そのほかに優先するべき検査手段があることがほとんどである。ヒトと異なり小動物領域におけるMRI検査には麻酔が必要であり、また検査費用も高額になる。したがってその適応については、オーナーとの十分なインフォームドコンセントの後に、慎重に決定するべきである。

2 )神経疾患に対して一次診療施設で実施可能なこと
神経疾患が疑われる症例に対する具体的なアプローチ手順を(Fig2)に示した。
この表から分かるように、MRIに代表される断層撮影検査の優先順位は必ずしも高くない。その反対に、表の上位に挙がるまず行うべき検査法は、一次診療施設でも十分に実施可能なものである。

MRI装置は高額な検査機器であるために、基本的には二次診療施設に設置され、様々な形態による紹介制度を介して利用されることが多い。したがってMRI検査を円滑に行うためには、これらの一次および二次診療施設の相互理解と、良好な協力体制が必要である。いわゆる“神経症状”あるいは“神経症状に類似した症状”を呈して動物が来院した場合に、一次診療施設で可能なことをもう一度考えてみる必要がある(Fig3)。

神経疾患の診断におけるMRIの役割

3 .MRIの基本的撮像法と脳の正常像

1 )撮像原理
MRI検査は、基本的に強力な磁場とラジオ波(RF波)を利用して、生体の水素原子核からMR信号を取り出し、それを画像化するものである(Fig4)。その撮像原理は(Fig5)に示す通りであり、まず生体を強い磁場内に置くと(MRIのスペックでよく言われるテスラとは、この外部磁場の強度を表す単位である)、通常ではランダムな方向に向いている生体内の水素原子核のスピンが一方向を向く(Fig6(1)-(2))。これらの整列したスピンに対して、特定の周波数のRF波を照射すると、スピンはエネルギーを吸収し高いエネルギー状態へと遷移する(励起)。このことをもう少し具体的に言い表せば、スピンが外部磁場によって整列した方向から倒れ、またスピンの回転の位相がそろうことになる(Fig6(3))。次にRF波の照射を中断すると、その倒れたスピンは元に戻り、また位相がバラバラの状態へと戻っていく。このスピンが元に戻る過程(緩和と呼ばれる)でMR信号を取り出すことが可能である(Fig6(4))。これを繰り返しながら生体からMR信号による情報を収集し、最終的にMRI画像が作成される。

Fig4,Fig5

Fig6

信号を取り出す過程で必要なRF波の組み合わせをパルスシークエンスと呼び、従来から一般的に使用されているのはスピン・エコー(spin echo, SE)法、グラディエント・エコー(gradient echo, GE)法、インバージョン・リカバリー(inversion recovery, IR)法などである。また個々のパルスシークエンスを繰り返す間隔をTR(繰り返し時間、ms=ミリセカンド単位)、信号を採取するまでの時間をTE(エコー時間、ms=ミリセカンド単位)と呼ぶ。

Fig7

2 )縦緩和と横緩和
MRI検査においてT1強調画像、T2強調画像という言葉を聞くことが多いと思う。MRI画像を作成する上で上述した緩和現象が重要であり、この緩和には縦緩和(T1)と横緩和(T2)の2つが含まれている。詳細は割愛するが、縦緩和とはRF波によって倒されたスピンの外部磁場方向への回復過程を表し、横緩和とはそろっていた位相がバラバラの状態へ戻っていく過程を表している。パルスシークエンスを適切に選択することによって、これらの縦緩和(T1)と横緩和(T2)を強調した画像を得ることができる。

具体的には、SE法においてTR,TEともに比較的短い時間で撮像した画像をT1強調画像と呼び、それぞれの構成成分における縦緩和時間(T1)の差が画像上の差として強調されている。またTR,TEともに比較的長い時間で撮像した画像をT2強調画像(横緩和(T2)の差が強調されている画像)、さらにはTRが長くTEが短いものをプロトン密度強調画像と呼ぶ。またIR法の一つの応用的な手法として、長い緩和時間をもつ水の信号を抑制するFLAIR法がある。

以上のことから、T1あるいはT2強調画像におけるコントラストは、それぞれの構成成分における緩和時間(縦緩和と横緩和)に大きく影響されることがわかる。具体的には、T1強調画像では縦緩和が長いほど画像上において黒く示されることになり、反対にT2強調画像では横緩和が短いほど画像上で黒く示される(Fig7)。

 

3 )実際の撮像法
われわれの施設において、MRIにより脳の検査を実施する場合、まずT1強調画像、T2強調画像、FLAIR画像の横断像を撮像する。スライス厚は4~6mm程度、嗅球から小脳後縁までの脳全域をカバーできるようにスライスを設定し、基本的にはgaplessの画像を撮像する。また必要に応じてT1、T2、FLAIRの水平断像、矢状断像を撮像する(Fig8)。さらに腫瘍性疾患や炎症性疾患が疑われる場合には、MRI用の造影剤を静脈内投与しT1強調画像を撮像する、いわゆる造影検査を追加して行う。

Fig8

4 )脳の正常なMRI画像
疾患の有無を検討する際には、正常な脳や脊髄がMRI画像上でどのように見えるのかを理解しておく必要がある。それぞれの構成成分の形態的な特徴について理解しておくことが必要であるが、MRI画像ではそれぞれの領域が示す信号強度も重要な役割を果たす。一般的に脳のMRI画像では、灰白質の信号強度を基準として、病変部位や関心領域の信号強度を表す。たとえばT1強調画像で灰白質よりも黒く見えれば、“T1でlow”、T2強調画像で灰白質よりも白く見えれば“T2でhigh”などと表現する。MRI画像上で病変部位の評価を行う場合に、T1、T2強調画像上で観察される信号強度、あるいはT1とT2の信号強度の組み合わせなどを手がかりにすることが多い(Fig9)。

Fig9

4 .読影におけるポイント -病変の探し方-

検査対象から意図するMRI画像が得られたなら、今度は疾患の有無、あるいは種類について注意深く読影を試みる。病変によってはフィルムを見た瞬間に診断可能な明らかな疾患も存在するが、あるルールにしたがいながら理論的に読影を行う必要がある。読影のルールについては個人的な意見もあると思われるが、以下に示すような手順で行うのが、一般的ではないかと思われる。

1 )脳の対称性
基本的に脳は左右の対称性を保持した構造物である。したがって脳のMRI画像を検討する際には、画像上で観察される左右の対称性に注目する(Fig10)。
すなわち左右の対称性が破綻している場合には、その原因として何らかの疾患が存在している可能性を考える。一般的に解剖学的な異常はT1強調画像で、信号強度の異常はT2強調画像で確認しやすい傾向にある。

特に脳の正中線の変位が認められる場合には、脳腫瘍などの占拠性の存在が疑われ、脳実質内の信号強度について詳細な検討を加え、また造影検査を実施する。脳室系については、大きさについての左右差、形状の変化などに注意する。

脳の対称性

2 )脳および各構成成分の形状
また左右差のみでなく、脳の全体的な形状についても注意を払う。横断像のみでは脳の全体像を捉えにくいので、水平断や矢状断のT1強調画像を利用することが多い。特に正中における矢状断では、小脳、橋、延髄、第4脳室などの形状を把握しやすい(Fig11)。

小動物では脳室拡張を示す症例が比較的多いので、脳室系の大きさと形状に注目することは重要である。著しい脳室拡張を示す例における診断はそれほど困難ではないが、脳室の大きさに関する客観的な指標が十分に確立されていないために、境界領域の症例では臨床症状を十分検討した上での判断が必要と考えられる。

Fig11

3 )T2あるいはFLAIR画像における高信号領域
脳に発生する疾患では、T2強調画像あるいはFLAIR画像で高信号に描出されるものが多く存在する。また原発性疾患に伴う脳浮腫領域も、高信号に描出される(Fig12)。したがって前項目の左右対称性の評価においても、まずこれらの画像上の高信号を呈している部位を探すことは重要である。また左右の対称性がほとんど保たれている場合においても、これらの画像で高信号領域が存在している可能性は十分にある。

T2強調画像では脳脊髄液が高信号に描出され、脳実質に高信号領域が存在している場合には脳室や脳溝の構造が判別しにくいことがある。その際には注目したい画像と同レベルのT1強調画像を参照しながら、脳実質内における高信号領域の部位について検討する。またFLAIR画像あるいはプロトン密度画像が撮像されている場合には、これらの画像を評価に利用できる。これらの画像上で観察される高信号領域については、観察される中心的な部位(皮質中心vs.白質中心)、病変の数(孤立性vs.散在性)、病変の形状(限局性vs.瀰漫性)などに注目する。

Fig12

4 )影剤による増強効果
腫瘍性疾患あるいは炎症性疾患が疑われた場合には、造影剤を使用した造影検査を実施する。造影剤は血液脳関門が破綻している部分から実質内へ進入し、病変部位がT1強調画像上で高信号を示すようになる(Fig13)。その増強効果の強弱、パターン、形状などが疾患の性質を考える上で大きな情報を与える。

脳腫瘍は血液脳関門が破綻している代表的な疾患であり、MRI検査における造影検査は極めて重要である。獣医領域における脳腫瘍のMRI画像上の特徴については徐々にデータが蓄積しつつあり、その増強効果のパターンにより脳腫瘍の病理組織像をある程度推測することが可能である。特に髄膜腫などの硬膜と密接に関連している腫瘍については、dural tail(硬膜尾徴候)が明瞭に観察されることが知られている。

炎症性疾患においては、炎症巣周辺の血管新生を反映する増強効果が観察される。また肉芽腫性髄膜脳炎(GME)の場合には肉芽腫に相当する部分において増強効果を示す例があるが、この増強効果の強弱は症例によって異なる。髄膜炎の場合には、髄膜に一致した領域に増強効果を認めることが多い。

Fig13

5 )臨床的な背景との整合性
上述したような手順を踏み、MRI画像上における異常な所見を確認し、その病巣が何を意味しているのかを考えていく。そして最後に、病巣としてとらえられたMRI画像上の病変により、症例の臨床症状が説明できるのかということ、すなわちその病巣が責任病巣と考えても良いのか、という点をもう一度検討する。このことはMRIによる臨床的な診断を行うにあたり、最も重要なことであるかもしれない。

おわりに

今回はMRIの入門として撮像原理等の基本的な部分を紹介した。稿の中でも触れたが、MRIによる画像診断は二次診療・紹介診療として実施されることが多いので、MRI検査の適応の妥当性について、読者の皆さんにはよく理解していただきたいと思う。次回から3回にわたって脳と脊髄におけるいくつかの疾患に対するMRI画像について紹介する。

またこれらの画像診断による検査結果が治療法の選択に対して影響を与える可能性があるために、考えられる治療法についても簡単に紹介する予定でいる。