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小動物臨床におけるリハビリ入門

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日本大学獣医外科学研究室 日本大学動物病院 整形外科・神経運動器科 枝村一弥

第1回 イントロダクション・目的・種類・用意するもの

ベッツワンプレス2010春号(Vol.22)掲載分

はじめに

リハビリテーションを計画する前に知っておくべきこと

近年、米国、英国、豪州、オランダ、ベルギーなどの国々を中心に動物のリハビリテーション医学が急速に発展し、多くの獣医科大学で教 育も行われ始めている。これらの国々では動物医療専門の理学療法士の認定システムが確立されつつあり、動物医療専用のリハビリテーションセンターも数多く 存在している。一方、本邦では獣医師が動物のリハビリテーション医療を学ぶ機会が少なく、日本語で読むことのできる成書が1冊(犬のリハビリテーション: インターズー社)しか存在しないため、欧米と比較すると圧倒的に知識量が不足している。また、獣医科大学においても理学療法に関する講義がなく、学生への 教育は皆無と言っても過言ではない。さらに、各施設で行われている療法のやり方や成績を中立に議論する機会がなく、体系付けられた方法の確立やエビデンス の構築が困難な状況にある。したがって、わが国においては画一化された治療方針は存在せず、国際的な流れに反し我流になる恐れがあることは否定できない。 このような現状を打破する目的で、2007年に日本動物リハビリテーション研究会が発足した。日本動物リハビリテーション研究会は、動物医療のためのリハ ビリテーションの普及が第一の目的であり、将来は世界基準の動物理学療法士の認定も視野に入れている。今後、わが国においても世界基準のリハビリテーショ ン医療が発展することを期待する。

犬のリハビリテーション教育と認定プログラム

現在、犬のリハビリテーション教育として2つの有名な認定プログラムがある。最も有名なのが、米国のテネシー大学で行われている Certificate Program in Canine Physical Therapyで、 このコースを受講して最後の試験に合格するとCCRP(Certificate Canine Rehabilitation Program)の認定を受けることができる(http://www.canineequinerehab.com/)。 もうひとつは、 Canine Rehabilitation In-stitute(CRI)による認定プログラムである (http://www.caninerehabinstitute.com/)。 このプログラムでは、獣医師や人の理学療法士のためのコースと、動物看護師と理学療助手のためのコースの2つのコースがある。これらのコースを受講して最 後の試験に合格すると、前者はCCRT(Certified Canine Rehabilitation Therapist)、後者はCCRA (Certified Canine Rehabilitation Assistant)の認定を受けることができる。

最近では、日本でもこれらのプログラムの一部を受講することができるので、本邦においても世界基準の資格の取得者が増えることを期待 する。その他に、オーストラリアを中心にいくつかの国で動物のリハビリテーションに関する講習会が開催され、日本人も参加できるようになっている。

リハビリテーションとは

リハビリテーション(rehabilitation)という語は、「再び」という意味の"re"と、ラテン語の形容詞で「適した」と いう意味の"habilis"、そして動作を意味する"ation"という語から構成されている。この用語を直訳すると「再び人間として適した状態にする こと」であり、古くは権利・名誉・資格を取り戻すということを意味してきた。現在の医療では、リハビリテーションとは「失った機能の回復だけでなく、障害 者の人間らしく生きる権利の回復を援助すること」と解釈されている。動物医療にあてはめるのならば、「傷ついた動物が機能回復し、再び伴侶動物らしく生き るようにさせてあげること」と定義できるかもしれない。

動物のリハビリテーションの目的

動物医療におけるリハビリテーションの目的は、「障害が原因で低下もしくは低下していく動物の生活の質(QOL; quality of life)の向上や維持、またはその低下のスピードを緩徐にすること」である。リハビリテーションを行う上での最大の利点は、非侵襲的であるということで ある。リハビリテーションを行うことで、生活の質の改善、回復のスピードの促進、疼痛の緩和と合併症の軽減、筋や神経の機能回復、関節の可動域(ROM) の維持および改善、患肢の体重負重の増加や運動機能の向上、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の投与期間の短縮でなどが達成できることが多い。ま た、簡単なリハビリテーションは誰にでも行うことができるため、飼い主も治療に参加することができる。それは、動物と飼い主、そして飼い主と医療チームの 連携を高めるといった効果も期待できる。

犬と猫で有効なリハビリテーションの種類

動物医療においてもリハビリテーションの重要性が認識され始めているが、小動物臨床領域では実際にどのようなリハビリテーションが行 われているのだろうか? 現在行われているリハビリテーションは、マッサージ療法(Massage Therapy)、他動運動(Passive Exercise)、運動療法(Therapeutic Exercise)、物理療法(Modalities)などに大別される(図1)。

図1 小動物で行われているリハビリテーションの種類

マッサージは、筋肉や軟部組織をやさしく手で触って行う方法で、軽擦法(ストローキング、エフルラージュ)、揉捏法(ニーディング、ペトリサージュ)、強擦法(フリクション)、叩打法(パーカッション)、振動法(シェイキング)といった方法がある(図2)。

マッサージには、疼痛緩和、筋肉の張りの改善、血流およびリンパ流の改善、筋萎縮の程度を最低限に抑える、精神的および身体的なリラックス効果があるとされている。 他動運動は、主に関節可動域(ROM)の改善や、筋および腱の伸張を目的に行い、それにはモビライゼーション(図3)、マニュピレーション、他動的関節可動域訓練(Passive range of motion: PROM)、ストレッチ(図4)、屈伸運動、自転車漕ぎ運動などがある。

運動療法には、セラピストが動物の体の一部を動かす受動的な方法(Passive therapeutic exercises: PTE)、セラピストが補助しながら動物自身が運動を行う方法(Assistedtherapeutic exercises: Assis TE)、セラピストの補助なしで動物が自発的に運動を行う方法(Active therapeutic exercises: ATE)がある。これら運動は、動物の状態を評価して、無理せずに行うのが重要である。神経疾患の症例では、姿勢反応の回復、起立訓練(図5)、歩行訓練といったリハビリテーションが中心となる。特に、ダンシング(図6)、座り立ち運動(Sit-to-Stand exercise)、スイスボール運動(図7)、バランス・ボード運動などが、姿勢反応の回復に有効である。

いずれの疾患であっても、自力で患肢の運動ができ十分な体重負重ができるようになったら、完全な歩行が可能となるまでが真のリハビリテーションのポイントである。この時期には、カートセラピー(図8)、陸上・水中トレッドミル(図9)、水泳、ジョギングなどの積極的な運動療法が中心となる。整形外科疾患では体重負重、ROM、筋力を改善させる目的で、制限歩行、ジグザグ歩行、旋回歩行、坂道歩行、階段の昇降などが行われている。

物理療法とは、電気、光線、温熱、超音波などのエネルギーを利用して症状を緩和させる療法の総称である。物理療法は、主にペインコントロール、神経刺激、筋力の回復といった目的で行われることが多い。

整形外科や神経外科の周術期には、電気刺激療法(TENS、NMES、EMS)(図10)、超音波療法、低出力LASER療法(LLLT)(図11)、体外衝撃波療法、近赤外線療法、低周波療法、短波ジアテルミーなどが動物医療で行われている。最近では、獣医療用のこれらの機器も開発・販売されていて多くの動物病院で物理療法が行われており、これらの治療の犬や猫における有効性も示され始めている。

これらのリハビリテーションは、正しい時期に適切な治療法を選択しないと症状が悪化することがあるので注意する。したがって、治療を行う者は、リハビリテーションのプログラムを計画する上で、これらの治療の効果および治療のタイミングを正しく理解しておく必要がある。

図2 マッサージ療法 A:軽擦法(ストローキング、エフルラージュ) B:揉捏法(ニーディング、ペトリサージュ) 図3 モビライゼーション A:関節モビライゼーション B:脊柱モビライゼーション 図4 股関節のストレッチ 図5 起立訓練 図6 ダンシング(Dancing)/図7 スイスボール運動 図8 カートセラピーによる歩行訓練 図9 水中トレッドミル 図10 電気刺激療法/図11 低出力LASER療法(LLLT)
リハビリテーションを行うために準備するもの

ほとんどのリハビリテーションは治療を行う者の手があれば行うことができるが、多くのリハビリテーションを効果的に行うためには、ゴムマット、アイスパック・ホットパック(図12)、スイスボール(図13)、バランス・ボード、カバレッティレール、階段、トレッドミル(陸上・水中:図14)、吊り具:ハーネス、補助歩行用車椅子(図15)、電気刺激装置(図16)、超音波治療装置、低出力LASER治療(LLLT)器(図17)といった特別な器具や装置が必要となることもある。

 
さいごに

今回は、動物医療におけるリハビリテーションの欧米と日本の現状、認定プログラム、リハビリテーションの目的と種類、用意するものなどについて順に述べた。次回は、リハビリテーションを行うための機能評価法、治療計画の立案法と成功させるためのコツについて概説する。さらに、各論としてマッサージ療法と他動運動について解説する予定である。

参考文献

  1. Millis, D., Levine, D., Taylor, R. ed. Canine rehabilitation and Physical Therapy. W B Saunders Co. Philadelphia. U.S.A. 2004.
  2. Bockstahler, B., Levine, D., Millis, D. Essential Facts of Physiotherapy in dogs and cats. ミ Rehabilitation and Pain Management -. BE Vet Verlag. Babenhausen. Germany. 2004.
  3. Gross, D.M. Canine Physical therapy. Orthopedic physical therapy. Wizard of Pow, East Lyme. U.S.A. 2002.
  4. Fossum, T.W. ed. Small Animal Surgery. 3rd. ed. Mosby. Philadelphia. U.S.A. 2007.
  5. Kazuya Edamura. Rehabilitation in dogs and cats with spinal diseases. Jpn. J. Vet. Aneth. Surg. 37(3): 49-60. 2007.
  6. 枝村一弥. 小動物のリハビリテーションの現状と将来-科学的根拠に基づいたリハビリの実際-. 獣医畜産新報. 618(10):807-814. 2008.
  7. 枝村一弥. リハビリテーションの基本と考え方. In: 勤務獣医師のための臨床テクニック3. 石田卓夫監修. チクサン出版. 東京. 2009.