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ベテランスタッフの対応力

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ベテランスタッフの対応力

『ベッツワンプレス 2005春号(Vol.3)』 掲載分

ベテランスタッフの対応力
大阪ぺピイ動物看護専門学校講師 坂上 緑

誤解されやすい「臨機応変」

飼い主さんが診察券を出さないで座っていました。受付に出た新人の看護士さんはその人を始めて見たので名前を聞いたところ、「何年もここに来ている のに、名前を聞くなんて失礼だ。」と怒られました。

このような状況が起こったときに、院長先生ご自身から、あるいは先輩のスタッフさんから新人さんにどのような指導がなされているでしょうか?「あの人はうる さい人だし、顔パスだから早く覚えるように」あるいは「名前の聞き方がまずかったのではないか?怒らせないように丁寧に聞くように」などでしょうか。ベテランの看護士さんは名前を覚えているので、その人の顔を見て黙ってカルテを出して処理しました。すると「彼女のように早く臨機応変な応対ができるように」でしょうか?実は、問題はベテランさんの方にあります。診察券でカルテ管理をしているにも関わらず、この飼い主さんに「診察券を出さなくてもOK」という体験を何度もさせて「この人は顔パス」というような複雑な応対をしなくてはならない事態を生み出しているからです。新人さんが来院の飼い主さんの顔を最初から完璧に覚えていられるはずはありません。複数人で行っている業務を個人の記憶によって処理してしまえば、トラブルは当然起こります。現象をその場の要素だけで判断すると、まずい応対なのに「臨機応変」と評価してしまうことがあることにお気づきいただけるでしょうか?まず記憶でカルテを出したのなら大変危険なことです。診察券がないのですから飼い主さん本人に名前を口頭で確認しなくてはなりません。わかっているからしなくてもいいのではなくて、わかっていてもしなくてはならないのが「重要なこと」ですが、待合室でのことは院長先生に見えないためにチェックできないことが多いのではないでしょうか。だから今後、病院の誰が受付をしてもスムーズに処理ができるよう診察券の持参を促さなくてはなりません。それが、ベテランとして組織全体を考慮した本当に臨機応変な応対です。「うるさい人」だからと黙って記憶による処理をするというのは、実は一番楽な方法なのですね。結果、後日飼い主さんの不快を起こし、新人がかなり難しい状況に追い込まれることになってしまいます。

接遇セミナーにはベテラン看護士を

このように結果としてトラブルは新人が絡んだときに発生しやすいものですから、私のセミナーに動物病院からこられる看護士さんは、新人の方が多いです。病院の中で、もっとも経験の少ない方が上手に応対できないために、「行って勉強しておいで」と送り出されてこられるようです。接遇セミナーでは言葉遣いとか、お辞儀の仕方とかを学ぶ…というようなイメージだけがあるからかもしれませんし、トラブルはその場を応対した人だけに問題があるような感じがして当然なのかもしれません。

しかし、全員が受講できないので誰か一人というなら、その病院でもっともベテランさんに出ていただくと研修効果が全く違うと思います。敬語で話せば接客はうまくいくというような単純なことではないし、前述のように難しい状況は従来のスタッフのやり方が原因で起こってしまっていることも多いのです。現状をよく知っているベテランさんに院長先生とコンセンサスを取りながら、セミナーでご提案したことを取捨選択していただき、病院のコンセプトを明確にしてから現場で展開していただくのが理想です。

スタッフ管理は電話の出方から

私は電話には「はい、○○動物病院でございます」と出ることをお勧めしていますが、これを新人さんだけに伝えると、病院でフィードバックしてきた後、「うちはそういう上品な地域じゃないから「ございます」だと堅苦しい。「です」でいい」と先輩から言われた」というような報告を聞くことがあります。もちろん、「ございます」で出るか「です」で出るかは、その病院でお決めになることだと思いますが、セミナーではただ、「ございますの方が丁寧ですよ」という伝え方をしているわけではありません。顧客の特性を考える時「地域性」は確かに大切な要素です。しかし考えるべきことはまだ他にもたくさんあります。動物病院が提供するものは「高額な知識と技術」であるとともに、「素人にはその価値が判断しにくい」という商品特性から、それを扱う人のイメージがそのまま商品のイメージに繋がるということ、また、例えばコンビニやスーパー、美容院など、顧客の多くがその地域周辺で限定されるような店が、地域のイメージだけで言葉遣いのレベルを選択しているか…等の分析も必要です。

人々がその地域内だけで生活していたのはかなり昔のことですよね。多くの人は毎日、または頻繁に様々なところに移動します。移動する人の多くがオフィスワーカーであり、サービス業に従事しています。また店舗では「こちらでお召し上がりでしょうか?」というアルバイトの接客がどの地域においてもスタンダードになっていますね。お客としては誰もが敬語や接客表現で応対される日常です。例えばコンビニ、スーパー、レストラン、あらゆるところで私たちは「お客様」と呼ばれることに慣れていますから、「お客さん」と呼ばれると「え?」と思われませんか?そういうもろもろの事を含めてお伝えするのですが、新人でまだ20歳前後の方が、内容を詳細にうまく病院に伝えていただくのは難しいようです。せっかく従業員に投資をして受講させたのに「ございますがいい」と言われたという結果だけしか伝わらないのなら、「です」よりも「ございます」の方が丁寧ですと、誰でも知っているようなことしか教えてもらわなかったと思われるのでは?…と残念に思います。セミナーに参加されなかった方の感覚的な判断で、時には院長先生に伝わる前に、一蹴(先輩が新人に下した判断はこうなりかねません)されてしまうこともあるのですが、こういうベテランさんたちにこそ、顧客心理や商品特性から自分の病院の現状を分析し、判断できる力を身につけていただくためのヒントをお伝えするのが接遇セミナーだと私は思っております。お伝えした情報を全て鑑みて、その結果「ございます」が採用されなかったのだとしたら、それは厳然とその病院のコンセプトとなるでしょう。どのような言い方をするにしても、声だけの媒体である電話から経営者のビジョンが伝わります。出方は従業員におまかせではなくて、院長先生がお決めになり、全員統一した言い方で出るようにするところからスタッフ管理のスタートでもあると思います。

著者紹介

坂上緑
坂上 緑(さかがみ みどり)
大阪ペピイ動物看護専門学校「マナーとコミュニケーション」講師。
フリーアナウンサーとして活動しながら、国際博覧会、専門教育機関、店舗、企業で接客、セルフプレゼンテーションの研修講師を務める。大阪府箕面市「北摂夜間救急動物病院」顧問。第25回動物臨床医学会スタッフセミナーで「飼い主さんと良い関係を築くために」のテーマで講演を実施。
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