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「死」と向き合う飼い主さんのために

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「死」と向き合う飼い主さんのために

『ベッツワンプレス 2007夏号(Vol.11)』掲載分

『ベッツワンプレス 2012秋号(Vol.32)』
大阪ぺピイ動物看護専門学校 マナーとコミュニケーション講師 坂上 緑

医療に携わる方々にとって、「死」は避けられないことでありながら、それに関わる対応には苦慮することがあるようです。
死が絡んできた状況下での飼い主様との関わり方についてのご質問も多くいただきます。
非常にデリケートな問題ですので、私自身、これまで公のセミナーでテーマに入れた事はありませんし、活字にしたこともありませんでした。
今年、獣医療と関わって10年を過ぎ、個人的見解としてまとまりましたので、獣医師の先生方へ一飼い主の視点として、伝えさせていただくことにいたします。

死の可能性に向き合う時

「亡くなる可能性」を伝えられた瞬間から、深い悲しみに暮れる飼い主様も大勢いらっしゃるでしょう。飼い主様の心情へ様々な配慮があって、それを告げるタイミングは獣医師の先生方においては迷われるところであろうと思いますが、飼い主としては、自分の飼っている動物が病気で亡くなる可能性が間近に迫っているならば、それを一刻も早く明確に伝えてほしいというのが、大方の希望であろうと推察します。

私は夜間救急病院と関わりながら進めている仕事がありますので、重症の子達を目にすることも多いのですが、現場でもうすぐ亡くなると診断された動物達が、とてもそのようには思えないほど元気そうに見えることを初めて知りました。しっかり立っていたりして、人間なら、亡くなる数時間前にとてもあのようにはしていられないだろうと思います。ですので、動物の死について体験の少ない飼い主からすると「死ぬ」なんて、とても信じられないという思いをぬぐえないまま、死を受け入れなくてはならないことが多いのでしょう。多くの飼い主の心の中で、始めから共に暮らしてきた動物達は「人と同じように」受けとめられていますから、彼らは人と違い、死ぬ直前まで、自分で自分を守らなくてはならない本能がある等ということは思いもつかないし、酸素を吸わせてもらって、みるみる元気になるのを見ると、回復したと信じてしまいたくなるでしょう。無意識の中の希望的観測で、「死」の可能性を否定し始めると、それが現実に訪れた時、辛さが増すと思います。獣医師の先生には、ご自身のご見解を「可能性」として早い時点でお伝えいただくことに躊躇は不要だと思います。その後で、もしも、死を免れれば幸運に感じます。

安楽死について飼い主へ伝える時

「安楽死」についてのご見解は、獣医師の先生によって様々ではありますが、これについて飼い主さんに提案されるのであるならば、タイミングが非常に重要だと思われます。提案されてすぐ、例えば数日中に、あるいは、数時間内に決めなければならないという状況は、飼い主には大変なストレスです。もしも、経済的な理由であきらめざるを得ない状況が起こるならば、その時の決断の辛さを飼い主は一生背負わなくてはなりません。

ですので、安楽死については、飼い主さんが精神的にシリアスな状況下で判断しなくてもすむように、健康な状態の時に、病院のビジョンとして「文字」で予め伝えておくとよいと思います。メッセージファイルを作って、病院案内や、予防についてなど、他の情報と共に初診の方にはまず読んでいただくとか、待合室に設置して閲覧を呼びかける等の方法で、日頃からそのような状況に対するストレス抗体を、飼い主様の心に作っておくことも、見えないワクチンとして効果的ではないでしょうか。ペットロスについての情報も、このような事前啓蒙が後々、飼い主さんの精神的苦痛をやわらげることになると思います。

飼い主として主治医に伝えておきたいこと

私は雌犬を2匹飼っています。飼っている動物の「死」を体験したことはありませんが、想像するだけで涙が出ます。ですから、彼女達の「死」に際して起こる様々な状況については、すでに心の中でシミュレーションをしています。かかる費用に対して支払える限度額、安楽死を提案された時の決断の仕方、亡くなった時に入れる棺の形態、埋葬の仕方、埋葬の場所…そういう事を決めています。そして、「死」の可能性が現実に訪れた時は、こちらから飼い主の意向として、早い段階で主治医の先生にお伝えするつもりでいます。現実にそのようにできるかどうかわかりませんが、少なくとも、その時の不安な心理状態で、重要なことを次々と決断しなくてはならない状況が訪れた時、事前の心の準備は少しでも自分を楽にしてやれると思っています。このような思いに至ったのも、私が獣医療の現場情報が極めて多い環境にあることによる、自己啓蒙の結果です。

死が訪れた時

「動物が亡くなった時、飼い主さんには何て言ったらいいでしょうか?」という質問はよくよせられます。つまり「お悔みの言葉」ですね。前述のように、私は飼い主として死に向き合った経験がありませんし、たとえあったとしても、全ての飼い主が、同じような心情であるとも思えません。ですから、受付応対や、電話応対のように、お悔みの言葉をサンプルとして並べ、どれかをピックアップして言ってくださいというわけにはいかないと思います。特にペットロスに陥ってしまう人は、かけられた言葉にもしも傷ついたら、それをずっと背負ってしまいますから。その人についての情報なく、この言葉…と推薦はできないというのが正直なところです。

言葉をかける時、かけない時

「感情」は言語化した瞬間にその人の思考が介在します。その飼い主様と関わりの記憶の中から瞬時に何か「言葉」が出るならばその人との関係においては、その先生が選択された言葉がベストだと、私は思います。飼い主さんではなく、亡くなった動物に対して何か言葉が出るかもしれません。それを聞けば飼い主さんには先生の思いが伝わるでしょう。

今、私が飼い主の一人として獣医療に携わる方々にお伝えしたいことは、「何て言ったらいいのかわからない」あるいは、「言葉をかけていいのかどうか迷う」状況であるならば、何も言わなくてもいいのではないでしょうかということです。獣医師ならば「亡くなりました」という事実を告げるだけで「思い」は伝わります。言語は一定の地域内のコミュニケーションを図る音声記号に過ぎません。人間も動物ですから、出来事に対してまず起こるのは感情です。救命に尽力した医師として、黙って少しの間、飼い主さんとともにそこにいていただければ、先生の表情、静かな動き、息遣い…それらから、人間という同種の動物同士だからこそ伝わるもの」があると思います。数秒後、あるいは数分後、飼い主さんからの言葉があれば、それを受けていただき、最後は「深く一礼」…この動作に全てを込めていただけたらと思います。

一つだけお願いがあります。その子が死に至る過程において、先生の中にも様々な迷いや試行錯誤があったかもしれませんが、先生が選択しなかった方法がbetterであったかもしれない可能性については、飼い主さんに告げないであげていただけないでしょうか。その可能性は、今後の獣医療に活かしていく情報として、獣医療に携わる方々と共有していただきたいと思います。私達飼い主は、獣医師もまた人間であり、お互い完璧ではないことを知っています。私達が死を受け入れるために必要なのは、誠意ある判断のもと、全力で取り組んでくれた病院、獣医師を「私が選択した」という確信です。それが自分には出来ないことを託した者の思いです。どうか、この「確信」を飼い主さんに持たせてくださいますようお願いします。

著者紹介

坂上緑
坂上 緑(さかがみ みどり)
●動物病院接客コンサルタント
●大阪ペピイ動物看護専門学校「マナーとコミュニケーション」講師。
●大阪府箕面市「北摂夜間救急動物病院」執行役員。
●第25回動物臨床医学会スタッフセミナーで「飼い主さんと良い関係を築くために」のテーマで講演を実施。
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