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相互理解 - 獣医師と看護師 -

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相互理解 - 獣医師と看護師 -

『ベッツワンプレス 2009夏号(Vol.19)』 掲載分

人間関係の重要性は、どのような組織でも認識しているところですが、動物病院においては、まず獣医師・看護師が協力し合うパートナーとしての「職業的概念」の相互理解が欠かせません。そして、お互い「概ね」の理解はなされているのですが、それでも日常業務の中で、心理的軋轢はなぜ起こるのか…具体的なケースを想定して分析してみました。

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軋轢の影響
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ここ数年、獣医療に従事する方々と直接話機会がとても増えましたが、動物と飼い主との間にいい関係が築かれ、愛情が深まり、人の心が穏やかになることへ大きく貢献できている病院が多く存在することを、一飼い主として実感しています。

同時に現場からダイレクトに収集した情報を統合すると、皆が真面目に、精一杯、業務を遂行しているにもかかわらず、経営者と従業員、先輩と後輩、獣医師と看護師等、様々に切り分けられる人間関係の中での軋轢を感じることもあります。

マイナスのイメージを持つ人とは、物理的にも離れていたいと感じるものですが、多くの動物病院では、診察台や手術台で動物を獣医師、看護師とで囲み、お互いに物理的にかなり近い距離で仕事をしています。人間関係にストレスや緊張があったりすると、一段と疲労度も高まり、集中力も低下してしまいやすい環境だと思います。

看護師の感じ方
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例えば、看護師が獣医師に持つ不満として、飼い主様が相当の時間待っているのに、先生は次の人をすぐに呼ばない・・・診察が終わったら、早く呼んでくれたらいいのに・・・というのがあります。そう感じる看護師は、飼い主様の立場に立って判断しています。お待たせしない努力をしようという思いは、接客の基本の心構えにはなくてはならないことですから、その看護師はCS(顧客満足)に向けるエネルギーが大きいといえるでしょう。

「早く呼んで」という獣医師に対する要求は自分のためではなくて、飼い主の観点から発生しています。そういう意味で、その看護師は組織人として病院にプラスの発想ができる人だと思います。

ただ、問題はここで、獣医師に対して不満が生じていることです。看護師は「診察の補助」という社会的役割の立場上、獣医師に対して心理的に直接何かを要求できないと感じていることが多いようです。だから、獣医師がすぐに飼い主様を呼ばないで、また、呼ぶように指示を出さないで、別のことをしたり、獣医師同士で雑談をしたりすると、一段と不満を大きくしてしまうということになるのでしょう。獣医師がその病院で自分より「新人」だったら、不満度も増すかもしれません。日々、そのような状況が起こるたびに、不満を積み重ねていけば、獣医師に対する思いはマイナスの思いが生じ続ける日常となってしまいます。

獣医師の感じ方
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一方獣医師の仕事は、自分の言動について「個人として」担う責任がとても大きいものと思います。看護師のミスも担わなくてはならないこともあるでしょう。自分の「判断」「決定」なくして、ことは進みませんので非常に集中力を要するものです。

判断には多くの思考を必要としますが、思考とは脳が「言語化作業」をしている状態なので、体は動かしていなくても何かを考えていれば、脳は稼動しっぱなしで、当然相当の疲労をします。職種に関わらず、「判断」による専門的なアウトプットがその場で繰り返される作業はかなり疲れるものです。緊張と集中は何時間も継続できないものですし、そのような職種の人には短時間でも複数回、神経を緩和する時間が必要なことは、よく理解できます。症例に向いて、自分で判断する作業は本質的に孤独だし、同じ職種の獣医師同士で2~3分でも雑談的に会話をすることは、かなり緊張の緩和になるのでしょう。

経験していないものは想像しにくい
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おそらく多くの動物もそうなのでしょうが、人間の判断は「経験」によりなされます。「指示の遂行」が業務の多くを占め、命に関わる重要な決断をするような経験は看護師にはできないため、医療に対する決断への緊張やプレッシャーが獣医師ほどには実感しにくいだろうと思います。

つまり、獣医師にとっては、思考や緊張緩和の時間が必要であるというところへ思い至らず、キャリアが浅ければ「飼い主様が待っているのに先生は休憩している」というとらえ方もありえるということです。

また、獣医師には伝えにくいことを、看護師に伝える飼い主様はたくさんいらっしゃいます。「待っている人ばかり」がいるのが待合室です。

病院で待つことが好きな人はおそらくいないでしょう。「不本意なことをせざるを得ない人たち」がいる場所を管理するのは気を遣って疲れるものです。待ち時間が長かったことの不満はほぼ、看護師に向けられているのが現状です。不満の矢面手に立ち、謝るのは看護師の常ですし、そういう体験を繰り返せば、獣医師の「思考作業」に思い至らず、診察が終わったら休憩していないで、早く呼んでくださいという要求が内心起こってしまうこともまた、理解できます。

診察時間内に看護師の仕事は診察補助以外にも山のようにあります。検査、薬を出す、精算、電話に出る等など・・・これらは飼い主様をお待たせしないという認識があれば、当然優先される業務ですので、看護師がてんてこ舞いで、手を休める時間はなくなる状況も多々あるでしょう。

そんな時、獣医師に対してストレートに要求が出せない不満があれば、別の方法でそれを伝えようとする心の動きが出てくることもあるようです。看護師は忙しく、先生は「手が空いているようだから」そこに落ちている毛玉くらいは拾っておいてくださいというような思いです。

獣医師にしてみれば、これは本末転倒でしょう。しかし、口に出せない「思い」が影響する受け止め方や判断は誰にもあるのです。言葉で説明をしていない言動の動機や意図は伝わりません。

その現象を見ると、獣医師には「うちの看護師は毛玉が落ちていても気付かない」という不満が生まれ、お互いにストレスを持ったまま我慢し合う・・・そうなると悪循環です。協力し合う人間同士の関係としては甚だよろしくない状況になると思います。

判断についての説明を
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「考え中」の人は、何もしていないように見えます。働いている人からぼんやりしてさぼっているように感じることもあると思います。獣医師が「飼い主さんが待っていらっしゃるのは、わかっているのだけど、ちょっと考えなくちゃいけないことがあるので、5分くらい時間ください。」と一度、看護師に伝えていただければ、看護師にも「獣医師の担う責任に対する思い」が再認識できるでしょう。気づいた看護師はその後に接するあらゆる獣医師に対して、言動の受け止め方が変わってくるし、不要な不満も生み出さなくてすむのではないでしょうか?

動物病院の現場からもたらされる様々な情報から、私が看護師教育で重要だと感じるのは、「獣医師の立場を理解した飼い主対応」ができる人材の育成です。しかし、獣医師のことについては、獣医師ではない私が学校で概論的に伝えるだけでは、実感が伴わず、記憶にとどめることは難しいと思います。何よりも、現場で獣医師からもたらされた情報は、その先生の獣医療に向かう態度としてずっと残ると思います。

獣医師が飼い主様だけではなく、看護師にも「なぜそうするのか」説明することで、その仕事に関わるパートナーにだからこそ理解し合えることはたくさんあると思います。

著者紹介

坂上緑
動物病院接客コンサルタント
坂上 緑(さかがみ みどり)
●大阪ペピイ動物看護専門学校・マナーとコミュニケーション・受付業務 講師
●株式会社葉月会・北摂夜間救急動物病院 顧問
●動物病院に特化した接客セミナー、講演を全国展開
【出版物】
●飼い主さんとのコミュニケーション講座
●動物病院ジョブトレーニング講座
●書籍・DVD インターズー
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