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犬猫の腹部超音波検査の基礎

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日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室 小山 秀一

第2回 脾臓・腎臓・副腎

ベッツワンプレス 2013夏号(Vol.35)

脾臓の描出法

肝臓・胆道系の観察の後、プローブを左最後肋骨後縁に沿って背側に移動する。この時、プローブのマーカーを尾側方向へ回転させながら移動していく。肝臓からの移行では、肝左葉がみえなくなる頃に胃のガスエコーによる音響陰影が出現する。そして、そのままプローブ位置を移動させるとガスエコーに続き脾臓が描出されてくる。脾臓が描出される頃には、プローブのマーカーがほぼ尾側を向くように走査する(図1)。脾臓は、腹壁直下に描出され、このプローブ走査では、一般的に薄い板状または逆三角形のような形態を呈する(図2)。脾臓は、微細な点状エコーからなり、腹部臓器の中では最も均一にみられる。被膜は明瞭に観察されることが多いが、必ずしも連続的とは限らない。脾臓が描出できたならば、脾頭部を観察するためにプローブを持つ手で腹壁を押し下げプローブと腹壁が平行になるようにし、超音波ビームを肋骨の下に向けるようにする(図3)。脾頭部描出では、脾臓中央部から脾頭にかけた画像が描出されてくるため大きく描出される。脾頭部を観察したならば、プローブを起こすようにして、脾尾側の観察を行う。一般的に脾臓は膀胱方向へ伸びるため、脾臓を連続的に描出しながら膀胱方向へとプローブを移動する。

腎臓の描出法

脾臓の観察が終わったならば、脾臓の中央部付近でプローブのマーカーが尾側を向いた状態で、ビーム方向を犬の身体の外側および内側に向ける(図4)。このプローブ走査で左腎が描出されない場合は、プローブの位置を少しずつ頭側または尾側に移動させ同じプローブ走査を繰り返す。左腎は右腎に比較し描出が容易であるが、腎臓の手前に消化管があるためプローブを持つ手で腹壁を押し込み、腎臓の上にある消化管を移動させるようにするのがポイントである。肥満犬や大型犬では、腹側方向からの走査では左腎の描出が困難な場合がある。この場合は、プローブ走査の位置を左側面に変更する(図5)。最後肋骨後縁の側面にプローブを置き、超音波ビーム面を上下に振りながら少しずつ尾側にプローブを移動させ腎臓を探す。

左腎が描出できたならば、左腎の縦断像で腎臓全体を観察する。縦断像では、矢状面と前額面が描出可能である。最も一般的に描出される断面は矢状面であり、中等度のエコーレベルを示す皮質とその内側に低エコーから無エコーの髄質が観察される。そして、髄質内には高エコーな線状構造が認められる(図6)。この線状エコーの見え方は、断層面によってさまざまであり、時には中央部に線状エコーが固まってみえることもあり、腎門部の領域が描出されていると考えられ、中心部エコーといわれている(図7)。前額面は、側面からの走査で描出しやすい。剖検時など、腎臓の長軸に沿って割面を入れた時にみられる像とほぼ同一である。超音波像では、中等度の反射を示す皮質とその内側の低エコーから無エコーを呈する髄質、そして高エコーな中心部エコー(腎門部)からなる(図8)。

腎臓の描出法

縦断像での観察が終了したならば、左腎を描出したままプローブマーカーが動物の左側を向くように90度回転させ短軸像を描出する。短軸像でも長軸像同様に腎臓全体を観察する。腎中央部の腎門部付近では、皮質は馬蹄形にみられ、高エコーな腎門部との間に腎乳頭(腎錐体)が観察される(図9)。正常な腎臓では、腎盂および尿管は描出されないが、この腎乳頭部を観察することで、腎盂の拡張が起こっているかが判断できる。水腎症、多尿を呈する疾患、輸液や利尿薬の投与を受けている動物では腎乳頭と中心部エコーとの間に無エコーを呈する腎盂が描出されてくる。さらに、水腎症では腎盂に続く尿管も観察される。

右腎は解剖学的に左腎よりやや頭側にあるため、左腎を描出した位置よりやや頭側よりの右最後肋骨後縁にプローブを置く。超音波ビーム方向がやや頭側に向くようにプローブを傾けたまま、右最後肋骨後縁に沿って背側に移動しながらビーム面を左右に振るようにして右腎を探す。右腎と腹壁との間には多くの消化管があるため、プローブを持つ手でしっかりと腹壁を押し込むことで、消化管を右腎の上から移動させる必要がある(図10)。左腎同様、この方法で右腎の描出が困難な場合は、右側面からの走査に切り替える。特に、胸の深い犬種では最後肋骨後縁からの走査では右腎が十分に描出できない場合が多いため、肋間からの走査を加えて右腎を観察する必要がある。右腎が描出できたならば、左腎同様に縦断像と横断像で右腎全体を観察する。

なお、猫の腎臓の走査時には、腎臓の触診が容易であるため、プローブを持つ手で腎臓を触診しながら走査すると描出が容易である。

副腎の描出法

副腎の描出には、動物を仰臥位に保定し、縦断方向でプローブを腹壁に対しほぼ垂直に当てる方法と動物の側面にプローブを当てる方法がある。プローブを腹壁に対しほぼ垂直に当てる方法は、副腎の解剖学的位置をイメージしやすいため、側面からプローブ走査をする方法に比較し副腎の描出が容易である。そこで、今回はこの方法を中心に描出法を解説する。いずれの方法においても、副腎は非常に小さい臓器であるため、その描出にあたっては左腎と腹大動脈および右腎と後大静脈をランドマークとして利用する必要がある(図11)。

左副腎の描出では、プローブが腹壁に対しほぼ垂直になるようにしてまず左腎の長軸像を描出する。この時、プローブを出来るだけ身体の外側に当て、超音波ビーム方向を変更するのではなく、ほぼ垂直に当てたままプローブを内側に移動させながら腎臓を描出するように心がける。左腎が描出されたならば、左腎の頭側が画面の中央よりに描出されるようプローブの位置または超音波ビーム方向を調節する。そして、超音波ビーム方向を変えずに、プローブをさらに動物の内側に移動させる。この移動の時は、プローブを持つ右手の指先を使って皮膚および消化管を一緒に移動させるつもりで行う。副腎の描出では、消化管および消化管内のガスが副腎描出の妨げとなることが多いため、この手の使い方がポイントであり、決してプローブだけでは行わない(図12)。プローブを内側に移動させることで、腹大動脈が描出されてくる。腹大動脈は、拍動を伴う内腔が無エコーな管腔構造として確認できる(図13)。また、カラードプラ法が使用できる装置では、この管腔をカラードプラ法で観察すると、血流信号が拍動に伴いフラッシュするのが認められる。腹大動脈が描出できたならば、プローブを少し回転させるようにして腹大動脈が画面を出来るだけ長く横切るように調節する。左副腎は、解剖学的に左腎と腹大動脈の間で左腎のやや頭側に位置している。そのため、プローブをほぼ垂直に当てたまま、左腎から腹大動脈方向へ平行移動させることで、左腎の頭側よりがみえていた位置と腹大動脈がみえてくる位置の付近で腹大動脈が現れる直前に左副腎が描出されることになる(図14)。左副腎の描出技術を上達させるためには、プローブを持つ右手の使い方と左腎と腹大動脈の間でプローブの平行移動が出来るように練習をする。すなわち、左腎を描出し腹大動脈の位置までプローブを移動させ、再度左腎の位置にプローブを戻したときに、画面の同じ位置に左腎の同じ部位が描出できるようにすることである。また、左副腎かどうか自信がないときには、左副腎と思われる臓器をカラードプラ法で観察してみる。左副腎の特徴として、横隔腹静脈が左副腎を横切っているため、カラードプラ法でこの血管を確認する(図15)。

右副腎の描出は、基本的に左副腎を描出するために行った手順を右側で行うことになる。まず、身体の外側よりからプローブを当て右腎の描出を行う。右腎の描出は、腎臓の描出法で解説したように、左腎と比較してやや頭側よりに位置しているため、超音波ビーム方向をやや頭側に向ける必要がある。そして、右腎長軸像が画面の中央に描出されるようにプローブを調整する。右腎が画面の中央に描出できたならば、プローブを持つ右手の外側とを使って皮膚ごと内側に移動させるつもりでプローブを平行移動させる。右副腎は左副腎に比べより多くの消化管が覆っているため、プローブを持つ右手の外側をしっかり押し込む様にして消化管を移動させる必要がある(図16)。プローブを内側に移動させていくと太い血管が描出されてくる。これが後大静脈であるが、右手の押し込みが強いと後大静脈がつぶれてしまい、はっきりと観察されないことがあるため、後大静脈が描出されない場合には、押し込む力を弱めてみる。後大静脈は、カラードプラ法で観察すると頭側に向かう連続的な血流信号が確認できる(図17)。後大静脈が描出されたならば、プローブを回転させるようにして出来るだけ長く画面を横切るように調節する。そして、プローブの向きを変えないようにして可能な限りゆっくりと右腎を描出した位置まで平行移動させる。右副腎は、ほぼ右腎の腎門部と後大静脈との間に位置している。したがって、右腎の中央部がみえていた位置付近に、後大静脈の像が消えた直後のタイミングで描出されることが多い(図18)。右副腎の描出は、左副腎に比べ難易度が高いといわれている。今回の描出手順でのポイントは、右腎と後大静脈との間のプローブの平行移動で、常に同じ位置に同じような右腎の長軸像が描出できるようにすることである。また、前述したように後大静脈のすぐ近くにあるため、プローブの移動を可能な限りゆっくりすることである(自分の目で画像の変化が追える速度)。