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獣医眼科学入門

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ネオ・ベッツVRセンター 獣医師 小山 博美

第3回 緑内障、白内障

ベッツワンプレス 2006秋号(Vol.8)

緑内障

緑内障とは眼球の健康性と視力の維持を損なう眼圧上昇を示す疾患、と以前は定義されていた。しかしながら現在では網膜神経節細胞とその軸索の進行性の死滅による視力喪失をさすことになり、一般的に言われる眼圧上昇を必ずしも必要としなくなっている。現実に人医領域では正常眼圧性緑内障が緑内障のかなりの割合を占めている(その割合は報告では10%から60%とかなりの幅がある)。しかしながら獣医領域では緑内障の大半が高眼圧を伴うものであるため(実際動物にも正常眼圧性緑内障があるのかどうかはまだ不明)、今回は高眼圧よって生じる緑内障に絞って話を進めていきたいと思う。

房水産生とその排泄

前房水は毛様体突起の無色素性上皮によって産生されている。その産生は
(1) 能動的産生
(2)限外ろ過
(3)拡散・ろ過
によって行なわれている。このうちもっとも重要なのは能動的産生で、ここに炭酸脱水酵素が関与している。

前房水の排泄には以下の2つの経路が存在する。
(1) 主経路:隅角、線維柱帯を通って
(2)副経路(ブドウ膜-強膜排泄路):虹彩、脈絡膜の血管から
このうち重要なのはもちろん主経路であるが、その割合は動物種によって異なっている。人では(1)が90%で(2)が10%、犬では(1)が85%で(2)が15%、猫では(1)が97%で(2)が3%である。

ここで重要なのは、「高眼圧は房水の産生増加ではなく、排泄低下によっておこる」ということである。排泄が低下するということは、排泄系のいずれかに問題が生じ、前房内に前房水が過剰に蓄積する状態である。緑内障は治療によって治癒するものではなく、コントロールできているだけなのである。つまりほとんどの場合、一生治療が必要になるのである。そして視力は低下し続け、最終的に失明する。また原発性の場合、対眼に緑内障が発生する確率はかなり高く、片側に発生した場合のクライアント・エデュケーションが重要となる。これらを獣医師がまず理解し、オーナーに理解してもらわないと、緑内障の治療はうまくいかず、トラブルの原因になることが多い。

診断
視神経の障害(陥没)

トノペンによる眼圧測定が必須である。正常眼圧は犬で10-20mmHg、猫で10-25 mmHgといわれている。眼圧上昇がおこるとさまざまな症状を呈する。角膜は全体的な浮腫を呈し、強膜血管は怒張する。眼底検査では視神経の障害(陥没)(図1)が認められる(ただし急性の場合、眼底に変化が出ていない場合もある)。高眼圧により視力は低下から喪失している。瞳孔径はさまざまであるが、中程度散大から完全に散大していることが多い。また対光反射は消失している。

緑内障を認めた場合、まずその緑内障が原発性であるのか、続発性であるのかを鑑別する。原発性とは他の眼科疾患によるものではなく、隅角に問題があって眼圧上昇を起こしたものである。犬は原発性緑内障の多い動物種で、好発犬種が数多く知られている。続発性は何らかの眼疾患によって生じたものである。猫での緑内障は続発性が多く、その大半は炎症に続発するものである。

以下に続発性緑内障の原因を列挙する。
炎症(図2)
水晶体脱臼(図3)
眼内腫瘍
前房出血
網膜剥離

炎症(図2)水晶体脱臼(図3)

次に、その眼が視力を回復できる可能性の有無が、どの治療を選択するかに非常に重要となる。言い換えると急性か慢性かになるが、慢性緑内障であってもうまく眼圧がコントロールできれば視力は温存できることもあり、一概に慢性は視力が無いとは言いがたい。視力回復が困難な状態として、牛眼、視神経乳頭の重度の陥没などが挙げられる。初診時に視力の回復に対しての判定が不可能であれば、視力回復可能として治療に当たることをお勧めする。一度失った視力は回復できないため、可能な限り早急で集中的な治療を行なってほしい。

治療

緑内障の治療はその原因、視力の有無によって大きく異なる。そして選択した治療方法の利点、欠点を知らないとうまくいくものもいかなくなる。

治療の目的は大きく2つに分けられる。
(1)視力回復が望める症例には視力温存のために眼圧を正常に保つ。
(2)視力回復が望めない症例には疼痛除去のために眼圧を正常に保つ。
治療方法の選択には原発性であるか、続発性であるかも重要で、続発性の場合、原因疾患を治療しつつ眼圧を正常化することが必要になる。

以下は筆者が考える、緑内障治療に対するフローチャートである。(図4)

緑内障治療に対するフローチャート

点眼薬
・炭酸脱水酵素阻害薬(トルソプト、エイゾプト)
房水産生を抑制する。原発性、続発性のどちらにも使用可能である。

・プロスタグランジン製剤(キサラタン、レスキュラ)
ブドウ膜-強膜排泄路を促進する。原発性に使用可能である。炎症時には禁忌である。キサラタンは縮瞳作用があり、水晶体前方脱臼時には禁忌となる。

・βブロッカー(チモプトール、ベントス)
房水産生を抑制する。原発性、続発性のどちらにも使用可能である。

・副交感神経作動薬(サンピロ)
瞳孔縮小作用があり、隅角を広げ、房水流出を促進する。原発性に使用可能である。炎症時と水晶体前方脱臼時には使用には注意が必要である。

内服薬
・炭酸脱水酵素阻害薬(ダイアモックス)
点眼薬と同様に房水産生を抑制する。炭酸脱水酵素にはいくつかのタイプがあり、残念ながらダイアモックスは眼に対する効果が低く、副作用が出ることが多い。現在では点眼薬にとって代わられている。

・浸透圧利尿剤(アミラック)
浸透圧により前房と硝子体内の水分を減少させ、眼内の体積を減少させる。急性緑内障の短期治療に使用する。使用には血液-房水関門の状態が重要で、関門が破綻している場合効果が減少する。

注射薬
・浸透圧利尿剤(マンニトール)
内服と同様、前房と硝子体内の水分を減少させる。その効果は早く、30分以内に効果が現れる。急性うっ血性緑内障時に使用される。

外科手術
レーザー光凝固術(図5)

・毛様体凝固術(レーザー光凝固術(図5)、凍結手術)
レーザー光もしくは凍結によって、房水産生を行なっている毛様体突起を一部破壊する方法である。房水産生を抑制するために行なわれる。効果が現れるまでにある程度の時間が必要となる。またその効果は時間とともに減少し、眼圧上昇が再発することが多い。しかしながら手術による眼球内への侵襲は最も低く(レーザー)、複数回実施することが可能である。

・前房シャント術
前房内にシャントを設置し、結膜下に房水を排泄する方法である。効果は手術直後に最大であるが、時間経過とともにその効果は減少し、長期の眼圧の維持は望めないことが多い。

義眼挿入術

・義眼挿入術(図6)
視力回復が望めない末期の緑内障に対し、眼圧上昇による疼痛除去のために行なわれる。以後も角膜に対するケアが必要である。

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・ゲンタマイシン硝子体内注入術
視力回復が望めない末期の緑内障に対して実施する。ゲンタマイシンを硝子体内に注入することにより、眼内炎を起こさせ毛様体を含む眼内構造を破壊する。治療に対する予想が立てにくく、効果がない場合やありすぎる場合(最終的に眼球癆になる)がある。

・眼球摘出術
視力回復が望めない末期の緑内障に対して、疼痛除去のために行なわれる。

続発生緑内障に対する治療
・炎症
消炎剤の投与を眼圧降下剤と平行して行なう。キサラタンやピロカルピンの投与は禁忌。アトロピンの投与は眼圧上昇を悪化させるため控える。毛様体凝固術や前房シャント術は、炎症を悪化させるため慎重に行なうべきである。

水晶体前方脱臼

・水晶体前方脱臼
できる限り早急に嚢内 水晶体摘出術を実施する。(図7)術後の無水晶体性緑内障や網膜剥離の危険性がある。

・眼内腫瘍
眼圧維持の予後が悪く、眼球摘出が適応となる。

・前房出血
消炎剤の投与を行なう。出血が収まった後、組織プラズミノーゲンアクティベイター(t-PA)の前房内投与が行なわれることもある

・網膜剥離
眼圧維持の予後が悪く、義眼挿入術やゲンタマイシン注入術、眼球摘出術が適応となる。

予後

内科的に眼圧が維持できるものでは視力の温存は可能であるが、時間とともに治療に対する反応が低下する。内科的および外科的治療を行なったとしても、最終的に失明することが多い。続発性緑内障は内科治療に反応が悪く、視力の予後は悪く眼圧の維持もできないことが多い。

白内障

白内障とは水晶体が混濁した状態をさす。白内障によって視力が傷害された場合の治療は外科的方法のみで、残念ながら内科的な治療方法では十分な効果を得ることはできない。

水晶体の解剖と生理

水晶体は血管の存在しない組織で、栄養の供給は前房水によってまかなわれている。水晶体の前嚢の内側には一層の上皮が存在し、赤道部ではこの上皮が分裂を繰り返し、水晶体線維が生涯形成されて続けている。このため加齢に伴って水晶体線維の数は増加し続け、中心部分(核)では線維が密集する。これが老齢時に見られる核硬化症である。後嚢には上皮細胞は存在していない。水晶体内部の組織は自己の免疫寛容が働かず、何らかの原因で内容物が漏出した場合、激しい炎症反応(ブドウ膜炎)がおこる。

水晶体の代謝はグルコースの嫌気性解糖系によって行なわれる。糖尿病の場合、房水中のグルコース濃度が高く通常の経路で代謝されきれず、アルドース還元酵素を用いたソルビトール経路が増加する。水晶体内にソルビトールが蓄積した結果、水晶体内の浸透圧が高くなり白内障が発生する。

分類

・原因による分類
遺伝性:犬ではもっとも多い
代謝性:糖尿病、低カルシウム血症など
老齢性
中毒性:進行性網膜萎縮による白内障もこれに含まれる
炎症性:房水性状の変化による
そのほか栄養性、放射線性、外傷性、感電性、眼奇形など

・発症部位による分類
赤道部(図8)
皮質性(前嚢、後嚢)
核(図9)

赤道部(図8)核(図9)

・程度による分類
初発:全体の15%以下が混濁している
未熟:(前期50%以下、後期99%以下)
成熟:100%
過熟:水晶体線維の融解が起こっている状態(図10)

・モルガニー
皮質部分が完全に融解し、核が沈下した状態(図11)

白内障の進行、治療、予後を考える場合、以上の分類が重要となる。

水晶体線維の融解が起こっている状態(図10)皮質部分が完全に融解し、核が沈下した状態(図11)

治療
治療

現在よく実施されている方法は、乳化吸引装置を用いた水晶体乳化吸引術と、その後眼内レンズを挿入する方法である。術後合併症を抑えるための点眼、内服治療ときめの細かい術後管理が必要である。(図12)

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予後

白内障手術に成功した場合、劇的に視力は回復できる。術後合併症としては後発白内障(水晶体嚢の繊維化による視力低下)、ブドウ膜炎、緑内障、網膜剥離などが報告されている。

参考文献

  1. 1) Veterinary Ophthalmology 3rd Ed. Kirk N.Gelatt Lipppincott Williams & Wilkins
  2. 2)標準眼科学 第8版 大野重昭、澤 充、木下 茂 / 編集 医学書院