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犬猫の腹部超音波検査の基礎

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日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室 小山 秀一

第3回 膀胱・前立腺・内腸骨リンパ節

ベッツワンプレス 2013秋号(Vol.36)

膀胱の描出法

膀胱の描出は、尿の貯留がある場合には比較的容易である。したがって、来院時には排尿をさせないよう指示をしておく。雄犬では、陰茎脇の恥骨前縁にプローブを当てる。雌犬や猫では、恥骨前縁でほぼ正中にプローブを当てる(図1)。プローブ走査は、縦断像および横断像のどちらから始めてもかまわない。膀胱がすぐに描出されない場合は、プローブ位置または超音波ビーム方向をやや頭側に向けるか、ビーム方向を左右に振りながら膀胱を探す。尿が貯留している場合は、内部が無エコーな袋状の膀胱が描出される。尿の貯留が少ない場合は、膀胱が骨盤腔側に移動している場合もあるため、超音波ビームをやや骨盤腔側に傾けてみる。また、プローブを腹壁に強く押し当てると、膀胱がつぶされてしまうため、消化管等の腹腔内臓器に埋もれてしまい、判別がつかないこともある。したがって、膀胱が描出されにくい場合は、プローブを押す力を弱め前述したプローブ走査を再度行う(図2)。これらの走査をしても膀胱が描出されない場合は、膀胱が空である可能性があるため、尿道カテーテルを用いて膀胱内に生理食塩水を注入してみることも、膀胱を観察しやすくする方法である。ただし、カテーテルを用いて膀胱内に生理食塩水を注入する場合には、できるだけ気泡が混入しないように注意する。膀胱内に空気が入り込むと、空気によるガスエコーのため膀胱が観察しづらくなる。

図1, 図2

正常な膀胱壁は、薄い粘膜層、粘膜筋板、筋層および漿膜からなる。超音波検査では、尿が中等度に貯留している場合は、低エコーの粘膜層は通常描出されなく、高エコーを呈する粘膜筋板、低エコーの筋層と高エコーの漿膜からなる3層構造として認められる(図3)。しかし、尿の貯留量が多い場合や分解能の低い装置では、単一な高エコーを呈する膀胱壁として観察されることが多い。膀胱壁は、内腔の尿との境界面は明瞭であるが、漿膜側は周囲組織との境界が不明瞭であることが多い。通常、正常な犬猫の膀胱壁は、尿が中等度に貯留している場合には約2mm以下であると考えられている。膀胱壁を縦断像や横断像でよく観察すると、正常でも膀胱先端側の膀胱壁は膀胱の中央部や頸部の壁よりやや厚くみられることが多い。

膀胱を観察するときの注意点としては、膀胱内に貯留している尿と膀胱壁および周囲組織との音響インピーダンスの差が大きいため、アーチファクトが出現しやすいことである。一般的に腹壁にプローブを当てて走査するため、腹壁に近い膀胱腹側(画面の上側)に多重反射 注:1)やサイドローブ 注:2)によるアーチファクトが出現し、膀胱腹側の膀胱壁が観察できないことがある(図4)。これらのアーチファクトを軽減するためには、プローブの走査方向を変えてみるか、超音波の減衰を起こしにくい水の入ったバックなどのようなものをプローブと皮膚の間に入れて観察する。

図3, 図4

前立腺の描出法

前立腺の描出には、膀胱をランドマークとして用いる。膀胱を正中側から横断像で描出する。膀胱の横断像を描出したならば、膀胱が画面中央に保ったままプローブを恥骨縁までスライドさせる。前立腺は骨盤腔内にあるため、そこから骨盤腔内を覗くように超音波ビームを尾側に傾ける(図5)。超音波像としては、膀胱頚部から連続して前立腺が描出されてくる。横断像では、前立腺はほぼ円形に描出され、リンゴを二つに割った断面のようにみられる(図6)。横断像の観察では、前立腺全体として大きさの評価だけでなく、右葉と左葉の対称性や内部エコーの均一性の評価が容易である。正常な前立腺では、右葉と左葉はほぼ対称に観察され、実質エコーも中等度のエコーレベルでありほぼ均一に認められる。被膜構造は、部分的に観察されることが多い。また、前立腺内尿道は前立腺のほぼ中央またはやや背側よりに低エコーを呈するリング状の構造として観察される(図7)。横断像を描出したままプローブのマーカーが尾側を向くようにプローブを90度回転させると縦断像が描出できる。縦断像では前立腺はやや楕円形に描出され、超音波ビームを左右に振ることで右葉および左葉が描出される。前立腺の中央部では、前立腺内尿道を確認することが可能である(図8)。

図5, 図6

図7, 図8

前立腺は、年齢および性成熟度により大きさは異なる。報告によると、体重が7~30kgの性成熟犬では前立腺の大きさは横断像および縦断像とも13~30mmの範囲であったとされている。筆者がビーグル犬で行った超音波検査による前立腺の大きさに関する調査でも、性成熟犬では前立腺の大きさは40mm以下であった。性成熟に達していない子犬や若齢時に去勢をした犬では、前立腺が非常に小さいため描出が困難となる。前立腺が小さいことは、臨床的に問題とはならないため前立腺を確認する必要性はないが、このような場合でも横断像で膀胱から連続して走査することで小さな前立腺を確認することが可能となる。

内腸骨リンパ節の描出法
図9

腹腔内リンパ節のうち、内腸骨リンパ節は比較的描出されてくる部位が一定であるため、内腸骨リンパ節の腫大があるかを確認することが腹部超音波検査時にルーチンに行われている。内腸骨リンパ節は、腹大動脈の分岐部付近に左右存在するため、腹大動脈の分岐部を描出することから始める。腹大動脈の分岐部を直接描出するのは、経験を多く積んだ獣医師であれば可能であるが、経験が浅い場合は描出するのに時間がかかることが多い。

そこで、まず左腎の縦断像を描出し、その後超音波ビームを内側に向け腹大動脈を描出する(左副腎の描出法を参照)。そして、そのままプローブを尾側方向へ移動していく(図9)。腹大動脈の分岐部は、ほぼ膀胱を観察する位置と同じであるため、膀胱の位置を確認しておくことが参考になる。腹大動脈や分岐部の確認にはカラードプラ法が有用である。膀胱の観察時に、膀胱背側に腹大動脈や後大静脈が観察されることがあり、そこから分岐部を確認することも可能であるが、腹部正中からの走査では膀胱背側にある直腸が腹大動脈を描出する際の妨げとなることも多い。したがって、前述のように左腎を描出するのと同じ方向から走査を行うことを推奨する。

腹大動脈の分岐部が描出されたならば、超音波ビームを左右に振り分岐部の両側に低エコーを呈する腫瘤様構造がないかを観察する。内腸骨リンパ節は、正常であれば薄く小さい組織であるため、通常は周囲の組織と鑑別ができなく描出されてこない。したがって、楕円形を呈する明らかな腫瘤として確認できるようであれば腫大と判断する(一般的に厚さが5mm以上)。

注: 1)
多重反射は、プローブと腹壁など平行に向き合った狭い反射体同士の間で何回も繰り返し反射をすることにより発生する。膀胱など液体のある場所では境界面での反射が強く起こるため特に発生しやすく、画像上に等間隔の線状エコーが何本もみられる現象である。
注: 2)
サイドローブとは、振動子から超音波を発生する際に作られる目的方向以外の超音波のことであり、このサイドローブから得られた反射情報も目的方向(メインローブ)にあるものと画像上には表示されるため、本来存在しないのもが画像に現れる現象。

図10