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犬猫の呼吸器病入門

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日本獣医生命科学大学 獣医放射線学教室 藤田道郎

第2回 呼吸器疾患を診断する(2) ~視診、聴診、問診 ステップ2~

ベッツワンプレス 2011夏号(Vol.27)

1. 「呼吸異常」に対する診断アプローチ

【2】呼気時においてのみ努力呼吸であるのか?
呼気時にのみ努力している場合、どこに病変が存在している可能性が高いか?これについては呼気努力中の副雑音の有無や吸気時間と呼気時間の比較、犬あるいは猫などを確認する必要がある。ここでは疾患に伴う呼吸状態について解説する。

1 )猫喘息
筆者は猫が呼気努力を呈している場合は気管支疾患、特に猫喘息を最初に考える。成書などにも猫喘息の一般的な臨床徴候の一つに呼気性の呼吸困難と記載されている。では、何故このような現象が起こるのであろうか?それについては病態から理解することができる。猫喘息は主に末梢の気管支領域において粘調性分泌物の貯留、痙攣そして気管支平滑筋の肥厚や細胞浸潤を起こす。そのため、その部位の気管支腔の径は狭窄している。その狭窄部位における空気の流れは、吸気時では胸腔内圧の力で気管支の径が拡張方向に引っ張られるため、短時間で末梢すなわち肺側に流れるが、一方、呼気時では胸腔内圧は気管支を拡張させないため、狭窄したままとなり、空気は通りにくくなる(図1)。ポワズイユの法則 1)から気管支径が半分になると空気が通る際にうける抵抗( 空気の通りにくさ)は約16倍になる。結果、吸気時間と比較して延長した呼気時間をかけて肺胞内のairを努力して呼出することとなる。このような呼気努力は細菌性気管支炎などでも見られるが、私は猫の気管支疾患として非常に発生頻度の高い猫喘息を最初に疑うようにしている。気管支腔内にまで浸潤した肺水腫などの場合は、肺胞内に液体が貯留しているため、呼気だけでなく吸気においても呼吸困難を示す頻呼吸となることが一般的である。

図1画像

2 )胸腔内気管虚脱
気管虚脱は吸気時あるいは呼気時に胸腔外の頚部気管の下位から胸腔内の気管あるいは気管分岐部や気管支などがほとんどの場合において背側から腹側方向にかけて虚脱する疾患である。好発犬種はポメラニアン、チワワ、ヨークシャー・テリア、トイ・プードルなどのトイ犬や小型犬である。また好発年齢は6~8歳と2歳以下である。気管虚脱の病態は気管構造が正常と比較して(1)軟骨細胞の成分に乏しい、(2)正常な硝子様軟骨を欠き、線維軟骨あるいは線維組織に置換、(3)軟骨組織におけるコンドロイチン硫酸のカルシウム量、糖蛋白とグルコサミノグリカンの減少などにより、軟化している。このため、自身の呼吸運動に伴う気管内外圧差によって気管径が変化してしまう。呼気時、特に努力呼気時では気管は拡張方向に力が働くため、頸部気管では正常よりも気管径が拡張するが、胸腔内においてはしばしば胸腔内圧がそれ以上の力で気管を虚脱させるため気管径は狭窄し( 図2-A、B )、結果として咳あるいは呼気性の呼吸困難が起こる。そしてこの場合、呼気時間は吸気時間と比較して延長することがある。

図2,図3,図4画像

3 )喉頭麻痺
これについては前回説明したが、喉頭麻痺では大部分が吸気時においてのみ披裂軟骨が内転するが、中には吸気時では披裂軟骨は不動化し、呼気時に内転する症例もある(図3-A 、B )。これはベルヌイの法則( 流速の速いところに物体が引き寄せられる)による。この場合の呼気に要する時間は短く、同時に「ハッ、ハッ」、「ガッ、ガッ」などの雑音が聴取されることが多い。補足だがこのタイプの喉頭麻痺では吸気努力は見られず、しばしば嚥下時に気道内に誤嚥が起きやすい。

【3】吸気時においても呼気時においても努力呼吸であるのか?
このタイプの呼吸困難が認められる場合、病変部位については呼吸時間や呼吸中の胸の振幅と併せて考える必要がある。吸気時においても呼気時においてもともに呼吸時間が短い、いわゆる頻呼吸の場合、肺炎や肺水腫などのガス交換障害、胸水や気胸などの拘束性疾患あるいは貧血や心疾患による循環不全などが考えられる。そしてこの場合、胸の振幅は大きいことも小さいこともある。一方、呼吸時間が正常と比較してともに延長している場合は呼吸器疾患、特に喉頭から気管あるいは太い気管支にかけて病変部位が存在している可能性を第一に考える。具体的には腫瘍や異物などの占拠性病変の存在あるいは左右の披裂軟骨が吸気呼気ともに不動化し、かつ声門裂が狭窄するような疾患、または気管支拡張症である。占拠性病変の存在や声門裂の狭窄では病変部位のエアースペースは狭窄しているため、動物は時間かけて吸気を行い、時間をかけてゆっくりと呼出せざるを得なくなるのである( 図4-A 、B )。その際、胸の振幅は大きくなることが一般的である。気管支拡張症においてはしばしば気管支腔内に貯留する粘稠性分泌物による粘液栓塞から低酸素血症となることで吸気努力を起こし、呼気時に拡張している気管支が虚脱する病態になると呼気努力が見られるようになる( 図5-A 、B 、C )。この疾患では胸の振幅は大きくなることが多い。

呼吸の異常について主に3つにわけて解説した。ことわっておくが上記に述べた病変部位は疾患が一つと限定した場合であり、複数の疾患が合併している場合にはこの限りではない。ここで症例を紹介する。写真は吸気性呼気性呼吸困難を示していた高齢の猫の胸部X線側面象である( 図6- A 、B )。肺の過進展所見、気管支パターンに加えて横隔膜は直線化を示しているとともに吸気時、呼気時ともにほとんど動いていないのがわかる。さらにX線透視検査から重度の肺気腫に伴い、横隔膜の動きが制限され、呼吸運動は肋間筋のみで行われていたことが判明した( 図6- C 、D 、E 、F )。猫喘息では重度になれば慢性気道炎症と慢性閉塞が恒久的な肺の弾性支持構造の喪失(肺気腫)を起こすことがあることからこの症例の吸気性呼気性呼吸困難の原因は重度な肺気腫により胸腔内が占拠されたために肺を拡張させるために努力して吸気を行うと同時に、猫喘息の項目で述べたような呼気性呼吸困難が同時に起こったものと考えている。

図5,図6-A,B画像

図6-C,F画像

2. 「咳」に対する診断アプローチ

咳反射は咳受容体が刺激し、その情報が神経系を経由して延髄にある咳中枢に伝達され、そして神経系を介して声帯、横隔膜、肋間筋、腹筋が動いて発現する。咳の受容体は咽頭、喉頭、気管・気管支、心膜、横隔膜、胸膜、縦隔などに存在するが肺の実質には存在しない。従って間質性肺水腫や肺胞性肺水腫では咳徴候は見られない。咳の原因はヒトにおいては機械的刺激、化学的刺激、炎症性刺激、冷気刺激、意図的刺激および心理的刺激と六つある。このうち、犬および猫では意図的刺激と心理的刺激を除く四つのいずれかの刺激によって咳が発現する。機械的刺激は咽喉頭や気管・気管支に痰、埃、異物などが存在する場合、肺葉捻転、肺気腫、心臓疾患や縦隔、肺に発生する腫瘍などにより気管・気管支が変位する場合などにおいて発現する。また機械的刺激は主に咽喉頭、気管から葉気管支までの上位の咳受容体において誘発される。従って、胸腺腫や原発性肺腫瘍による咳徴候は腫瘍による気管から葉気管支間の変位により、発現される。刺激性ガスなどの吸入により誘発される化学的刺激は主として葉気管支よりも末梢部にある咳受容体に反応する。その他、冷気刺激は冷気を吸入することにより誘発される場合である。咳に対する診断アプローチで重要なことは、(1)飼い主が訴える「咳」徴候を獣医師自身が視診、そして耳で聴いて本当に「咳」であるのか確認すること、(2)「咳」に対して飼い主にしっかりと問診を行うことである。

【1】飼い主が訴える「咳」は本当に「咳」か?
筆者は逆くしゃみ徴候を咳と誤って認識し、「咳」徴候との主訴で来院される飼い主を多く経験している。逆くしゃみとは飲水時や興奮時などの非病的な原因や後鼻孔や鼻咽頭内に腫瘍や異物などの病的な原因によって咽喉頭部から発せられる短時間性の吸気性呼吸困難発作である。鼻呼吸時に吸気努力が起こることで軟口蓋が震えたり、喉頭蓋が喉頭内に嵌入する際に発せられると言われている。従って、逆くしゃみが聴取されたら、多くの場合、病変部位は鼻咽頭内である。逆くしゃみの音は短時間発作のいびき音であることが多いが、時折「咳」の音に類似することがある。非病的な逆くしゃみが見られる好発犬種は若齢時のキャバリアやチワワである。この場合は特にケンネル・コフとの鑑別が重要である。ケンネル・コフは伝染性気管・気管支炎で若齢の犬に好発し、「咳」が一般的な所見である。そして多くの場合、胸部X線検査ではしばしば正常所見である。獣医師は飼い主が「咳」徴候と訴える若齢の犬に対してはケンネル・コフと臨床診断し、抗生剤や気管支拡張剤などを処方すると思われるが、当然のことながらこれらの内科療法は逆くしゃみに対して効果が期待できない。私は犬において「咳」と「逆くしゃみ」の鑑別は発症時に開口しているか否かを一つの目安にしている。すなわち、「咳」徴候時では多くの場合、開口して舌の先端が口腔から出ているのに対し、「逆くしゃみ」徴候時では閉口している。私の少ない経験では閉口して咳をしている犬は1例のみであった。病院でその徴候が再現出来ない場合は飼い主に自宅でその様子を撮影していただくのも良いと思う。その他、喉のあたりを軽くマッサージして嚥下反射を促すと「逆くしゃみ」では治まるが、「咳」では咳徴候が誘発されることが多い。上記のような点に注意して「咳」と「逆くしゃみ」を鑑別するのも良いと思う。

【2】「咳」に対する飼い主への問診
私は「咳」徴候を訴える患者が来院した場合、飼い主には主に以下のような問診を行っている。
1 )いつから咳が始まっているか?
2 )どんな時に咳が発現しているか?(朝方、嚥下時、興奮時や運動時など)
3 )季節や場所によって咳徴候に変動があるか?
4 )湿性の咳か?乾性の咳か?
5 )咳徴候は経過とともに徐々に悪化しているか?それともあまり変化していないか?
6 )他院では咳徴候に対してどのような治療をしていたのか?そしてその治療に対する反応は?
7 )鼻汁や逆くしゃみは見られるか?その場合は咳とどちらが先に発症したか?

これらの問診からある程度疾患を絞り込み、次に行うべき検査について検討している。

例をあげると
1)の「いつから咳が始まっているか?」については突然の咳き込みで呼吸が苦しい状態であれば吸引性(誤嚥性)肺炎などの可能性を考える。吸引性肺炎の急性期では先に述べた咳き込みや呼吸困難に加えて発熱や急性炎症反応、聴診で湿性ラ音あるいは喘鳴音などが聴取される。また単純X線上において右中葉の肺葉サインが最も好発する所見である。ただし、X線所見は発症直後では異常像が描出されないこともあるため、直後と6時間経過後に撮影を行うことが望ましい。

2)の「朝方、嚥下時、興奮時、あるいは運動時など、どんな時に咳が発現しているか?」については小型犬種やトイ犬腫で朝方、興奮時あるいは運動時のみにおいて咳が発現、あるいは他の時間帯と比較して顕著に発現している場合には先ず気管虚脱を鑑別する必要がある。興奮時や運動時では呼吸運動が活発になり、気道に過度の負担がかかるため、気管虚脱症例では咳徴候が発現しやすい。その他、気管虚脱症例では朝方に連続性の咳を発現することが多い。これは気管虚脱により、気道が過敏状態であるために冷気刺激による咳が誘発されやすいのではないかと考えている。気管虚脱を除外するためには吸気時と呼気時のラテラル方向の単純X線検査を行う。また嚥下時に咳が発現する呼吸器疾患としては左右の披裂軟骨が不動化する喉頭麻痺など誤嚥しやすい疾患の可能性が考えられる。

3)の「季節や場所によって咳徴候に変動があるか?」に対して「Yes!」の場合、アレルギー性呼吸器疾患の可能性を考える。

4)の「乾性の咳」においては罹患動物が若齢の犬であればケンネルコフなどの伝染性気管・気管支炎を疑う必要がある。その他、「乾性の咳」徴候では気管虚脱も鑑別する必要がある。

5)の「咳徴候は経過とともに徐々に悪化しているか?それともあまり変化していないか?」に対して「変化していない」場合、アレルギー性気管支炎などの可能性が高いと思われる。これについては「半年以上咳が継続しているが、胸部X線上、顕著な所見もなく、抗生剤などに明らかな反応もないが、病状の進行がない。」という徴候を主訴として来院したミニチュア・ダックスに対して血清IgE測定を行うと花粉やハウスダストマイトなどに陽性あるいは強陽性反応が見られ、副腎皮質ホルモン剤を投与すると咳が軽減した症例を何例かにおいて経験している。これらの臨床経過や治療反応などからアレルギー性気管支炎の可能性が高いと考えている。ただし、末梢血液中の好酸球数は猫喘息の末梢血液所見と同様に必ずしも高いとは限らない。精査には気管支肺胞洗浄検査が必要である。

6)の「他院では咳徴候に対してどのような治療をしていたのか?そしてその治療に対する反応は?」については当然のことながら、疾患を絞り込む上で極めて重要な情報である。

7)の「鼻汁や逆くしゃみは見られるか?その場合は咳とどちらが先に発症したか?」については先に鼻汁や逆くしゃみ徴候が存在し、その後咳徴候が発現した場合、鼻汁などを吸引した可能性が最も疑わしい。同様に、授乳中の犬および猫が突然咳徴候や呼吸困難徴候を示した場合、ミルクなどを吸引した可能性が高いので胸部単純X線検査を行い、吸引性肺炎を鑑別する。

その他、猫において咳徴候が見られる場合は気管支疾患が最も強く示唆される。猫は心疾患による肺水腫に罹患していても咳徴候が見られないことが多いとされている 2)

以上、2回にわたって呼吸異常と咳に対する診断アプローチについて私見をまじえながら解説した。しかし、これらの鑑別方法は絶対的ではなく、あくまで可能性が高い低いというレベルである。最近、吸気呼気努力を呈する猫に遭遇したが、結果は鼻咽頭内の占拠性病変が原因であった。腫瘤が鼻咽頭内のほぼ全体を占拠しているため、激しい吸気努力を行い、その反動で呼出が努力しているように見えたようである。従って、呼吸異常から最も疑わしい部位を精査し、その部位に異常が認められなかったら次に疑わしい部位を精査することが重要である。また「咳」徴候についてもその様子を観察し、飼い主に種々の問診を行い、可能性が高い疾患を絞り込むことが需要である。ただし、「咳」徴候が主訴に対しては特に犬の場合は背腹方向と吸気時および呼気時を加えた側方向写真、計3枚を撮影することは必須と考えるべきである。何故なら、「咳」の原因が必ずしも一つとは限らないからである。私がしばしば経験しているのは僧帽弁閉鎖不全症と胸腔内気管虚脱を併発している症例である。胸腔内気管や気管支の動的な変化は吸気時よりも呼気時に顕著に描出されやすいため、吸気時の側方向の写真のみでは胸腔内気管虚脱を見落とす可能性がある(図7-A 、B )。

また気管支拡張疾患では呼気時と比較することで吸気時に顕著に拡張した気管支像が容易に認められることも多い。

図7画像

参考文献

  1. West JB., Respiratory physiolo:gTyheessentials, ed 5, 1995, Williams & Wilkins.
  2. King LG. 猫の気管支疾患/喘息:犬と猫の呼吸器疾患 多川政弘、局 博一監訳.インターズ.2007.pp464-473