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犬猫の呼吸器病入門

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日本獣医生命科学大学 獣医放射線学教室 藤田道郎

第4回 下部呼吸器疾患の治療

ベッツワンプレス 2011冬号(Vol.29)

咳と呼吸異常。下部呼吸器疾患の臨床徴候は恐らくこれでほぼ全てであろう。特に呼吸異常には呼吸が速い、荒い、苦 しそうなどがある。また下部呼吸器疾患の中には咳徴候が一般的でなく、呼吸異常のみであることもしばしばである。下部呼吸器疾患に対する確定診断には気管支鏡、気管支肺胞洗浄検査、あるいは生検が必要となるものも少なくない。しかし、これらを実施するためには全身麻酔を必要とするため、なかなか難しいこともある。従って臨床の現場では聴診、打診、臨床徴候、血液検査や胸部単純X線検査から鑑別診断リストを作成し、それをもとに治療を開始することがしばしばである。今回は下部呼吸器疾患から猫喘息と気管支拡張症を取り上げてこれらの疾患の病態、臨床徴候、診断そしてどのような治療法があり、またどのような目標で行うかについて紹介する。

1. 猫喘息

気管支内の炎症と下部気道閉塞によって起こる咳、喘鳴、呼気性呼吸困難を主訴とする疾患である。下部気道の閉塞は気管支痙攣、気管支平滑筋肥大、粘液産生の増加、粘液クリアランスの低下、気道腔内の炎症性浸出液、気管支壁内の炎症性浸潤などによって起こる。そして炎症は好酸球が主体である。トイレのほこり、香水、タバコの煙、ハウスダスト、花粉などのアレルゲンによって誘発されると考えられている。重篤化しやすい若齢(2~3歳)と軽症~中等度の徴候を示す中~老齢(4~8齢)の発症があり、どちらも発作性の呼気性呼吸困難や咳などの臨床徴候を示す。その他、開口呼吸に伴う空気嚥下から腹部膨満を呈することもある。多くの場合、可逆性であるが、治療のコントロールが不十分であったり、病態の悪化に伴い重症化すると気道の線維化や肺気腫などの不可逆的な病態となる。確定診断は気管支肺胞洗浄液中の好酸球増加症の確認と寄生虫感染を否定することである。Johnsonらによれば好酸球性炎症(すなわち、猫喘息)を示唆するためには気管支肺胞洗浄液中の好酸球数が20%以上でかつ好中球数が正常であること、または好酸球数が50%以上であることと定義している。しかしながら、冒頭でも述べたようにこれらの検査には全身麻酔が不可欠であり、呼吸器症状を呈する動物に対する全身麻酔に抵抗感を感じる獣医師や飼い主もいるのではないだろうか?従って臨床の現場ではいくつかの項目が該当すれば猫喘息の可能性が高いと判断していることが多い。

図1

Padridは以下の項目を満たす場合を猫喘息と診断するとしている。

・突然の努力性呼吸の開始という病歴があり、酸素吸入、気管支拡張薬とステロイドを使用することで大部分は軽減する。
・胸部X線写真で「ドーナツサイン」や「トラムライン」と呼ばれる気管支壁の肥厚(気管支パターン)が見られる(図1)。

またSuterは以下の診断に基づくべきであるとしている。

・気管支洗浄液と末梢血に多数の好酸球の確認。
・気管支洗浄液と糞便検体に肺の寄生虫がいない。
・最も重度な呼吸器徴候でもコルチコステロイド療法で迅速に改善。
・抗生物質や気管支拡張剤治療に対する反応が不十分。

ただ、猫喘息の胸部X線所見には気管支パターン以外に間質パターン( 図2 )や肺野の透過性亢進像(図3)、さらに正常なこともある。筆者の場合は以下の項目に該当すれば猫喘息を第一に疑い、治療を開始している。

・聴診時において呼気時の喘鳴音(努力性呼出)。
・突然の呼吸困難や咳発作。
・ステロイド単独投与で劇的な改善。
・気管支パターン。

図2

猫喘息の病態はヒトの喘息とほぼ同様であるため、治療目標もほぼ同様である。
すなわち、

(1)気道過敏性を低下。
1. 気道過敏性が亢進することは避ける

・環境整備。
・発作の管理(発作を起こさない、起こした場合でも軽度な状態で抑える)。

2. 亢進した過敏性を積極的に低下させる。

・ステロイド薬の使用など

(2)質良く治る。
臨床的に寛解した際には気道過敏性が低い状態でかつ、末梢気道に器質的な変化が残らないように気をつける。

(3)寛解であることを忘れない。
治療により、気道過敏性が低下しても完全に正常化に戻らず、過敏状態は継続しているので再発を起こさせないように環境整備などに心がける。

緊急時
(1)気管支拡張剤の静脈内、筋肉内、皮下投与。

・テルブタリン:0.01mg/kg。
緊急時において推奨されている。しかしながら、日本では筆者の知る限り経口薬と皮下投与薬以外は未発売。
・アミノフィリン:5mg/kg 静脈内投与。
・ジプロフィリン。

(2)デキサメタゾン:0.25~2mg/kg 静脈内、筋肉内投与。
緊急時にはステロイド系薬剤を第一選択薬として考えがちだが、猫喘息においてはヒトの喘息と同様に気管支拡張剤が第一選択薬である。猫喘息では気管支痙攣による下部気道閉塞(呼気性呼吸困難)が起こっており、これを改善するためには気管支拡張剤が必要である。またステロイドは即効性薬剤でも効果発現まで3~4時間かかると言われている。

図3

慢性時
(1)副腎皮質ホルモン剤
・プレドニゾン:1~2 mg/kg 経口投与
・酢酸メチルプレドニゾロン:10~20 mg/cat 2~4週間毎。
副腎皮質ホルモン剤の長期高用量使用は膵炎、インスリン抵抗性糖尿病、膀胱炎などの副作用のリスクが高まる。

(2)気管支拡張剤
・テオフィリン:20~25 mg/kg
経口投与の1日1回または10mg/kg 経口投与 1日2回。
・塩酸エフェドリン:2~5mg/cat
経口投与 1日2回。
・テルブタリン:0.1~0.2mg/kg
経口投与 1日2回。
・フマル酸フォルモテロール:4μg/kg/日
経口投与 1日2回。

(3)抗ヒスタミン・抗セロトニン剤・塩酸シプロヘプタジン:1~4mg/cat
経口投与 1日2回。

(4)シクロスポリン。
・シクロスポリンA:3mg/kg
経口投与 1日2回。

(5)抗生物質
・アジスロマイシン:5mg/kg
経口投与 1日1回あるいは1日おき。
・エリスロマイシン:10~20mg/kg
経口投与 1日2回。

これらの薬剤の中でシクロスポリンなどの免疫抑制剤は、活性化T細胞からの局所のインターロイキン5(IL-5)分泌が活性化好酸球の気道への移動に関与し、気道過敏性を誘発している可能性が指摘されていることからその有用性が示唆されている。しかしながら、ステロイド系薬剤や気管支拡張剤など一般的な治療に反応しない場合や重症もしくは末期の場合に使用すべきと成書では記されている。筆者は本疾患への本薬剤の使用経験はない。

またアジスロマイシンやエリスロマイシンなどのマクロライド系の抗生物質については本疾患の病態悪化にマイコプラズマが関与している可能性が指摘されていることによる。

その他、ステロイド吸入療法も全身への副作用の問題からその有用性が示唆されている。しかし、この使用にはスペーサーと呼ばれる道具が必要であり、かつ猫の顔を吸入ステロイド薬が噴霧されているスペーサに密着しなければならず、性格的におとなしくないとその効果は限定的であると考える(図4-A、B)。その他、筆者は血清IgE検査を測定し、疑わしいアレルゲンの除去に努めるよう飼い主に指導している。

2. 気管支拡張症

気管支拡張症は好酸球性気管支炎、慢性気管支炎、細気管支炎および気管支肺炎が進行した結果、気管支内に細菌、炎症細胞、粘液などが蓄積し、気管支の線毛上皮や粘膜下組織(弾性組織、筋肉組織、軟骨組織)が破壊し、気管支が拡張する病態である。ただし、これらの慢性感染や炎症性気管支肺疾患のすべてが気管支拡張症になるわけではないことから既存の免疫異常、炎症に対する反応性、気道系の浄化機能異常(先天性あるいは後天性の線毛機能不全など)が関与しているのではないかとも考えられている。猫よりも犬で発症することが多く、アメリカン・コッカー・スパニエル、ミニチュア・プードル、シベリアン・ハスキー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアに好発するとの報告があるが、筆者の経験ではミニチュア・ダックスフンドに好発している。一般的な臨床徴候は湿性の咳、むかつき、粘液膿性の喀痰、呼吸困難などである。気管支拡張症の一般的な胸部X線所見は吸気時に円柱状に拡張した気管支像である。この拡張した気管支は呼気時においては不変であったり、病状の進行に伴って虚脱傾向の像を示すこともある(図5-A、B)。拡張した気管支は不可逆性であり、治療は病変部位が限局している場合には根治を期待して外科治療(肺葉切除)も選択できるが、びまん性の場合は病状の進行を遅らせる緩和目的の内科治療のみとなる。

図4

内科治療
(1)抗生剤
広域殺菌性抗生剤を使用する。筆者は気道内への移行性が高く、感染肺胞マクロファージ内における薬剤効果が優れているニューキノロン系抗菌剤を好んで使用している。

・バイトリル:5mg/kg
経口投与 1日1回。
・アベロックス:10mg/kg
経口投与 1日1回。

その他、ヒトにおいては気管支拡張症の原因のひとつにマイコプラズマ感染が指摘されていることからマクロライド系抗生剤が有効であるとされている。

・エリスロマイシン:10~20mg/kg
経口投与 1日2回。
・アジスロマイシン:10mg/kg
経口投与 1日1回。

状態に応じてニューキノロン系とマクロライド系の併用も検討する。
さらに本疾患では嫌気性菌の増殖も指摘されていることから、

・イミペネム+シラスタチン:5~10mg/kg
静脈内投与 1日2回。

・セフタジジム:25~30mg/kg
静脈内投与 1日2回。
・クリンダマイシン:11mg/kg
経口投与 1日2回。

なども有効とされている。

(2)気管支拡張剤
気管支拡張剤により気管支が拡張し、換気血流比の不均衡が拡大し呼吸状態が悪化する可能性はあるが、抗炎症作用、粘液線毛輸送能の促進に加えてメチルキサンチン系薬剤では横隔膜の収縮力増強および呼吸筋疲労の予防作用などがあるため、筆者は積極的に使用している。

・テオフィリン:10~20mg/kg
経口投与 1日2回。
・エフェドリン:1~2mg/kg
経口投与 1日2回。
・フマル酸フォルモテロール:4μg/kg/日
経口投与 1日2回。

(3)去痰剤
気管支拡張症では気管支腔内に粘調性の高い分泌物が存在している。粘調性が高いと抗生剤は分泌物内に侵入しにくくなるため、効果が低下する。従って本疾患のように慢性で粘調性の高い分泌物が存在している疾患では積極的に去痰剤を使用した方が良い。

・L -アセチルシスティン:10mg/kg
経口投与 1日2回。
・アンブロキソール:1mg/kg
経口投与 1日2回。

(4)消炎剤
抗生剤、気管支拡張剤そして去痰剤のみでは病状の維持あるいは改善が得られない場合では使用する。進行性疾患なので状況を見ながら早めの使用を検討した方が良い。

・プレドニゾン:0.5~1mg/kg
経口投与 1日1~2回。
ただし、新たな細菌感染には十分注意する。

(5)鎮咳剤
すでに低下している線毛浄化機能をさらに低下させるために原則禁忌である。

図5

その他の治療
(1)噴霧吸入療法
気管支拡張症は気道内に分泌物が貯留することで低酸素血症となるとともに、これらを吐き出せない状態がしばしば起こる。従って能動的な噴霧吸入療法(ネブライザー)で呼吸状態の改善と分泌物の体外への排出を容易にする。図6-Aは肺内パーカッションベンチレーター(IntrapulmonaryPercussive Ventilator:IPV)と呼ばれるネブライザー機能付き人工呼吸器である。
IPVの特徴は[1]肺内の分泌物の流動化、[2]喀痰排出の促進、[3]ガス交換機能の改善および[4]ドラッグデリバリー作用を有する。既存のネブライザーと異なり、能動的に噴霧吸入させるため、薬液が末梢にまで到達する(図6-B)。筆者が1日3回実施しているIPV療法の一例を下記に示す。

(1)コハク酸プレドニゾロンNa(コハクサニン:1mg/kg)
 硫酸ゲンタマイシン:2~4mg/kg
 チロキサポール(アレベール:1~5ml)
 滅菌生理食塩水:10ml
(2)チロキサポール
 アセチルシスティン(ムコフィリン:1~4ml)
 滅菌生理食塩水:10ml
(3)硫酸ゲンタマイシン:2~4mg/kg
 チロキサポール(アレベール:1~5ml)
 滅菌生理食塩水:10ml

(2)酸素吸入療法
 低酸素血症に対する治療として有用である。筆者は在宅酸素療法を積極的に勧めている。
 気管支拡張症に対する筆者の治療方法を紹介する。

(1)・ニューキノロン系抗菌薬あるいはクリンダマイシンなど嫌気性に対する抗菌薬
・気管支拡張薬
・去痰薬
(1)の治療で効果が見られなければ

(2)(1)の治療に加えて
・マクロライド系抗菌薬
・抗炎症薬(プレドニゾン)
(2)の治療で効果が見られなければ

(3)(2)の治療に加えて
・IPV療法
・在宅酸素療法

最後に

今回、紹介した猫喘息と気管支拡張症に対する治療方法はあくまで筆者が行っている一つの方法に過ぎない。これを参考あるいは反面としてより良い治療を組み立ててもらいたい。

参考文献

  1. ・Johnson LR., and Vernau W., 2011.Bronchoscopic findings in 48 catswith spontaneous lower respiratory tract disease (2002-2009). 25 : 236 -243 ,.
  2. ・Brayley KA, Ettinger SJ. 気管の疾患:小動物内科学全書「第4版」.松原哲舟 監訳.LLLセミナー. 1998, pp1043 -1058.
  3. ・Hawkins EC. 下部呼吸器系の疾患:小動物内科学全書「第4版」.松原哲舟監訳.LLLセミナー. 1998, pp1059 -1120.
  4. ・King LG. 犬と猫の呼吸器疾患.多川政弘・局博一監訳.インターズー. 2007.