犬猫の腹部超音波検査の基礎

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日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室 小山 秀一

第1回 肝臓と胆嚢・胆道系

ベッツワンプレス 2013春号(Vol.34)

はじめに

腹部超音波検査は、日常診療において必要不可欠な画像診断検査となってきている。X線検査も重要な画像診断法であるが、超音波検査では各臓器の断層像が描出されるため内部の構造を確認できる利点がある。
しかし、超音波検査はX線検査と異なり、腹部全体を一度に画像化できないため、各臓器を描出するとともに臓器内で観察したい部位をそれぞれ描出していく必要がある。
そこで、今回のシリーズでは各臓器の描出法を中心に解説していく予定である。各臓器の超音波検査上の変化を細かく取り上げることは紙面の関係から割愛させて頂くので、他の専門書等を参考にして頂きたい。

腹部超音波検査の準備

心エコー検査の項でも記載したが、超音波は空気やガスが存在すると著しい減衰を起こすため、その先に進んでいけないという特性を持っている。犬猫は体表が被毛で覆われているため、被毛中の空気に邪魔されないようにプローブを動物の皮膚に密着させる必要がある。そのためには、原則として被毛をバリカン等で刈る必要がある。腹部超音波検査が目的臓器だけの検査であれば、その臓器部位の毛刈りだけでも十分であるが、多くの場合(特に初回検査)は腹部全体の観察を行うことが多いため、できるだけ広い範囲の毛刈りを行うことが望ましい。
また、腹部の被毛が薄いタイプの動物では、毛刈りをせずにアルコール綿等で被毛をわけて皮膚の露出ができれば、超音波ゼリーをたっぷり使用することで鮮明な画像の描出ができる場合もある。しかし、この場合でも被毛が超音波ゼリー等で塊になると超音波の透過性を低下させ、画像が不鮮明になることを知っておく必要がある。

動物の保定は、仰臥または横臥で行う。立位でも可能であるが、立位の場合には消化管が腹側によるため、腹側側からの走査では臓器によっては十分な描出ができないことがある。動物を仰臥で保定する場合、硬い診察台の上では脊椎があたるため短時間の検査でも動物がいやがることが多い。
そこで、筆者は腹部超音波検査用のマットを使用している(図1)。

図1

図1 動物の保定と検査用マット
犬猫を仰臥位または横臥位に保定する。
この時、写真のようなマットを用いると動物への負荷も軽減できる。
保定の際には、四肢を頭側および尾側へ引っ張りすぎないよう注意する。

このマットは、頭側側がやや高くなっているため、肝臓や消化管が尾側へ移動するため腹部臓器が描出しやすくなっている。また、動物の保定の際には、過度に四肢を頭側および尾側に引っ張ると腹部の筋肉が緊張するためかえって検査がしづらくなる。ある程度、腹筋に余裕がある保定が望ましい。

画像の表示法

腹部臓器の描出においても、心エコー検査と同様に常に一定の表示をすることが走査技術の向上につながる。一般的には、縦断像の場合は、画面の左側に頭側、画面右側に尾側が表示されるようにする。この場合、プローブのリファレンスマーカーが画面右側に表示される装置であれば、プローブのリファレンスマーカーが常に動物の尾側を向くようにプローブ走査を行う(図2)。
横断像の場合は、画面の左側に動物の右側が、画面の右側には動物の左側が表示されるように走査する。この横断像の表示には、プローブのリファレンスマーカーが常に動物の左側を向くようにプローブ走査を行う(図3)。

図2

図2 縦断像でのプローブのリファレンスマーカーの向き
プローブのリファレンスマーカーがモニター画面右側に表示される超音波装置であれば、プローブのリファレンスマーカーを示す扇の赤色側が常に尾側方向になるように走査する。

 
図3

図3 横断像でのプローブのリファレンスマーカーの向き
図2 と同様に、横断像を描出する際にはプローブのリファレンスマーカーが動物の左側を向くように走査する。

 

縦断像および横断像での標準的な表示法について記載したが、腹部超音波検査では自由な断層像の描出が行えることが利点である。したがって、各臓器の描出に際しては正確な縦断像や横断像にこだわる必要はなく、縦断方向または横断方向と考えた場合のプローブ走査であることを理解して頂きたい。

系統的な腹部超音波検査

腹部超音波検査を行う場合の多くは、稟告・身体検査、血液検査またはX線検査により何らかの異常が予想される場合である。その場合、検査の対象となる臓器が限定されることが多いと思われる。
しかし、周辺臓器との関連や時に予期しない異常が発見されることがあるため、可能であればスクリーニング検査として腹部臓器全体の評価をすることを推奨する。その際、一定の手順で各臓器の評価をすることが見落としをなくすとともに、臓器評価の目を養うことにつながる。超音波像の評価は、多くの経験を積むことが重要であり、多くの正常像をみることで異常にも気付きやすくなる。

系統的な腹部超音波検査の手順の一例として筆者の方法を紹介する。
まず、肝臓の描出から始め、同時に胆嚢も確認する。そして、左最後肋骨に沿って尾側に移動しながら胃体部、脾臓の観察を行う。その後、左腎臓、左副腎を観察し膀胱へと移動する。
なお、避妊手術を受けていない雌であれば、左腎の尾側に異常な腫瘤がないかを確認する(ただし、正常な卵巣はほとんど確認できない)。その間、消化管が描出されるので合わせて観察する。膀胱の観察後に雄であれば前立腺、雌であれば子宮に異常があるかを確認する。
そして、腹部大動脈分岐部付近で内腸骨リンパ節の腫大がないかを観察する。次にそのまま肝臓を観察した剣状突起部位まで消化管を観察しながらもどり、右最後肋骨に沿って幽門付近の胃を観察しながら右腎臓を描出する。続いて、右副腎、雌であれば右卵巣に注意しながら尾側に移動し、最後に十二指腸・膵臓を評価する。

もちろん、目的臓器に関してはできるだけ慎重に評価を行うが、他の部位に関してはスクリーニング検査として、明らかな異常があるかに注意しながら観察を行う。

肝臓と胆嚢・胆道系の描出法

肝臓の描出は、剣状突起下から始める。剣状突起下にプローブをほぼ垂直におくと、正常な肝臓は描出されてこない。しかし、肝腫大を起こしている動物では肝臓の一部が描出されることがある。描出像は、縦断像から始めても横断像からでもかまわない。縦断像および横断像とも、肝臓を描出するためにはプローブをやや押し込みながら超音波のビーム方向が頭側に向くようにする(図4)。
腹部超音波検査では、このプローブを押し込む動作が重要であり、この時プローブのみで押し込もうとすると動物がいやがるため、プローブを持つ手で広い範囲を押し込むようにすることがポイントである。

図4

図4 肝臓描出時のプローブ位置と角度
横断像および縦断像とも、剣状突起下から超音波ビームを肝臓が描出されてくるまで頭側方向へ向ける。

 

肝臓の観察では、縦断像および横断像ともできるだけ広い範囲を観察するためにプローブを最後肋骨に沿って移動させながら超音波ビーム方向を上下・左右に動かす(図5、6)。肝臓の超音波像は、実質はほぼ均一で中等度のエコーレベルを呈する。そして、実質の中に血管壁が高エコーを示す門脈と血管壁が観察されない肝静脈がみられる(図7)。

図5

図5 肝臓右側描出時のプローブ走査
プローブを剣状突起下から右肋骨弓下に押し込むように走査する。
この時、プローブのみで押し込まず、プローブを持つ手全体で押すようにする。プローブの持ち方に注意。

 
図6

図6 肝臓左側描出時のプローブ走査
右側描出時と反対にプローブを剣状突起下から左肋骨弓下に押し込むように走査する。プローブの持ち方に注意。

 
図7

図7 肝臓の横断像
正常な肝臓では実質エコーはほぼ均一であり、その中に血管壁が明瞭な門脈と血管壁がみられない肝静脈や胆嚢が観察される。横断像では、肝臓の先に高エコーな線状の横隔膜が認められる(矢印)。肝臓を描出する際には、ミラー現象により横隔膜の先にも肝臓があるようにみえるアーチファクトが出現しやすい。

 

なお、犬では肥満犬を除き腹壁直下に肝実質が描出されてくることが多いが、猫は正常でも鎌状間膜の脂肪が厚いため、腹壁直下に鎌状間膜の脂肪が描出されその先に肝実質が観察される。そして、鎌状間膜の脂肪と肝実質のエコーレベルは正常であればほぼ同様となるため混同しないように注意する。
肝臓の横断像では、肝臓の先に高エコーな横隔膜が観察される。そして、高エコーな線状の横隔膜のためアーチファクトであるミラー現象が起こりやすく、横隔膜の先に肝臓があるようにみえるので注意する。
肝臓の辺縁の観察には縦断像が有用である。縦断像で正中からやや左側を観察していくと、胃と接する肝臓が観察できる。その部位で肝臓の辺縁を観察すると、正常では鋭角な辺縁が認められるが、肝腫大など実質に異常があると鈍化した辺縁を認める(図8)。なお、腫大した肝臓では、この断面の胃と横隔膜の距離が長く観察される。
肝臓萎縮や小肝症または胸の深い犬種や胃が拡張している症例では、剣状突起下や最後肋骨後縁からの走査では肝臓が十分に観察されないことがある。この場合は、左右の第10~12肋間の胸骨縁から肋軟骨接合部の間から観察する。

図8

図8 肝臓の縦断像
縦断像では画面左に横隔膜(矢印)が描出され、右側には腹腔臓器が描出される。この図では肝臓と接する胃の一部(矢尻)がみられ、胃の上に肝臓辺縁を認める。正常な肝臓では辺縁は鋭角を呈するが、この写真では鈍化している。

 

正常な胆嚢は、内部が無エコーであり、薄い胆嚢壁が観察される(図9)。胆嚢の描出は、肝臓の観察と同様の方法で行うが、横断像および縦断像とも正中よりやや右側に超音波ビームを向ける必要がある。胆嚢が描出されたならば、胆嚢の短軸方向と長軸方向を確認するため、プローブを回転させながら胆嚢全体を観察する。胆嚢形態は症例により異なるため、それぞれの症例でプローブをあてる角度や方向は同じにならない。
正常犬では胆嚢は袋状にみられ、胆嚢管が描出されことは少ないが、猫では正常でも胆嚢に続く胆嚢管が観察されることが多い(図10)。したがって、犬では拡張した胆嚢管が明瞭に観察された場合には、胆道系の閉塞が疑われるが、猫ではこの所見だけでは確定できなく、総胆管の拡張を確認する必要がある。

図9

図9 胆嚢の横断像
正常な胆嚢は、内部が無エコーで薄い壁が認められる。
壁の厚さは1~2mm程度である。
また、若干の胆泥貯留は正常所見と考えられている。

 
図10

図10 猫の胆嚢管
猫では正常であっても胆嚢に続く胆嚢管が観察されることが多い。
胆嚢管は蛇行しているため、描出方向によっては数珠状にみられることもある(矢尻)。

 

総胆管は、肝門部で門脈と平行に走行している。そのため、総胆管の確認には肝門部の門脈を描出する必要がある。肝門部は、肝臓の縦断像で確認しやすい。剣状突起下またはやや左側よりにプローブを置き、超音波ビーム方向だけがやや右に向くようにゆっくりプローブを傾け胆嚢を描出する(図11)。胆嚢が描出されたならば、肝臓臓側側が画面の中央になるようにプローブ角度を調節した後、超音波のビーム方向を元の位置にゆっくりと戻していく。肝門部は胆嚢の左側に位置するため、この方法で門脈が描出できる。
総胆管は、正常犬ではほとんど描出されないが、猫では正常でも門脈の腹側(画面では門脈の上)に観察される。総胆管の太さは、犬では3mm以下、猫では4mm以下と報告されている。図12は、閉塞性黄疸を呈した犬の門脈と拡張した総胆管を示している。

図11

図11 肝門部描出時の超音波ビーム方向
正中もしくはやや左側よりの剣状突起下から縦断像で胆嚢を描出する方向でプローブ走査を行う。

 
図12

図12 拡張した総胆管
縦断像により肝門部を描出すると門脈と平行に走行する総胆管が描出される。正常犬では総胆管が確認できないことが多いが、猫では正常でも確認できることが多い。
写真は、閉塞性黄疸を呈した犬から記録した拡張した総胆管である。カラードプラ法で観察すると、赤い血流信号で示された門脈の腹側(上側)に拡張した総胆管(矢尻)が確認できる。