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今時の「親しさ」

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今時の「親しさ」

『ベッツワンプレス 2005秋号(Vol.5)』 掲載分

今時の「親しさ」
大阪ぺピイ動物看護専門学校 マナーとコミュニケーション講師 坂上 緑

親しさの感じ方

飼い主さんに親しみを感じていただける応対をしましょうというと、いかにも飼い主さんと友人のように、雑談をするなどのイメージを抱かれるかもしれませんが、そういうことではありません。

昭和30年代、店鋪や病院はそれぞれの地域でのコミュニティでした。50歳代以上の人たちは、幼少期に対話式の販売をしていた「商店」で店主や販売員と話をしながら、買い物をしていました。ですから、おそらく動物病院でも、スタッフと話し込んだりするのは、その年代の方が多いように思います。病院のスタッフは、自分の名前を覚えていてくれるのは当然と感じ、診察券無しで座って待っていたりもします。ですが、これからの顧客は違います。

小売店がスーパー、コンビニのような形態になってから、店の人とプライベートな関係を持つことがなかった40歳代以下の世代の人たちの多くは、地域内の店鋪や病院でも必要以上に親しくなることを避けようとする傾向があります。彼らにとって、「気楽」というのは、関係が浅いということでもあるのです。友人のように話をすることよりも、自分の目的、つまり「動物病院から提供されるもの」そのものを、価値として認識したいという欲求を持っています。

言葉よりも行動で

もちろん「親しくなりたい」というのは、誰にもある欲求ですが、その内容が、世代によって大きく違っており、動物病院には、違う欲求をもった顧客が待合室で混在して待ち時間を過ごします。「飼い主さんと親しい関係になる」にもそのようなことを踏まえて、考えなくてはならないと思います。

人と人が関わる時に取る距離を、パーソナルスペースと言います。子供と母親、恋人同士等の関係であれば、距離をとらず密着したいと感じるものでしょうし、友人同士であれば、腕の長さの半分くらいの距離まで近づいてもストレスなく話せます。社会的関係では、腕をまっすぐ伸した長さくらいの距離を空けて向き合うくらいが、ほどよいと感じる人が多いかと思います。「腕を伸ばして攻撃されない程度の距離」が社会的パーソナルスペースといえるでしょう。そして、それは実は、受付カウンターを挟んで対峙するくらいの距離なのです。ですから、私は、できるだけ頻繁に、飼い主さんの「友人的パーソナルスペースに入り込む」ことにより、親しみを心理的に伝える応対をお勧めしています。

飼い主さんをカウンター前にとどめず、待合の椅子にかけてもらい「自分がカウンターから出て、飼い主さんに近づく」行動です。もちろん、雑談をしに行くためではありません。「動物病院が動物病院たるものを提示」し、こちらから提供に行くのです。

初診受付票や同意書などの書類はクリップボードにはさんで、こちらから出向き、飼い主さんとほとんど触れ合うような距離で記入を促します。ただし、相手はもちろん友人ではなく、あくまで顧客なのですから、これだけ近づく時には、腰を落して小さくなります。

「身体を小さくする」行動が動物として相手に何を伝えるのかの説明を、獣医師の先生にするのは釈迦に説法ですからいたしませんが、こういう行為がマナーだから、ルールだから…というわけではありません。人間という動物にとっても、行動が心理に及ぼす影響は言葉よりもはるかに大きいのです。

言葉に頼る接客はもちろん「話力」を必要とします。話力はその人が育ってきた環境により培われるものです。その種の話力にはかなり個人差があり、成人した段階で、あまりその力を持たない人を教育するのは至難の業です。コンビニ買い物世代のスタッフに、商店で対話による買い物をしてきた世代の飼い主さん達と、いきなり話力だけで、臨機応変に応対をしなさいというのは、無理があります。彼らが体験してきた「接客のアルバイト」でもそのようなことは教えられてもいません。


接客セミナーを受講中の
看護師の皆さん

しかし、前述の通り、実は動物病院の接客において、個々と親しくなるための話力は今後それほど必要になるスキルではありません。ノンバーバル(言葉以外の)コミュニケーションにより伝えていく親しさで、これからの世代の顧客にマッチした、接客スキルを身につけることはさほど難しくありません。

新人看護師が緊張して笑顔もなく、カウンターで突っ立ったまま行っている応対を、できるだけ待合室の飼い主のところまで出向かせて、腰を落してすることにより、その本人の仕事に対する「熱意」「やる気」そして「親しみ」を同時に感じていただくことができ、それは、その飼い主さんが、その病院に持つ最初の印象としてインプットされるでしょう。

待合室へ出向ける環境整備を

今、カウンターから待合室へ抜けていけるという環境は、動物病院の待合室の接客においては極めて重要なことだと考えるのですが、それが物理的にできない病院もたくさんあるようです。受付カウンターの設計やレイアウト、待合室のスペースなどを考える時点で、診察室との繋がりを重視されていたからでしょうが、正直、抜けていけない閉じられたカウンターでの応対は、笑顔や話力のスキルに高いものが要求されます。それを身につけるための時間は人によっては相当かかる場合もありますし、中には十分なレベルには到達できない人もいらっしゃると思います。人の能力を高めるより、多少のコストをかけてもカウンターの造りやレイアウトを変えてしまうほうが時間的にも早く簡単です。

また、看護師だけではなく、獣医師の先生方も、物理的に可能であるなら診察室から待合室へ出て、飼い主さんの友人的パーソナルスペースに近づいていくことをお勧めします。

「○○さん、ちょっと失礼します」といえば、飼い主さんの隣の椅子に腰掛けても構わないと思います。そこで、雑談などではなく、獣医師としての詳細な説明や情報を提供できるようになれば、単に「飼い主を待たせる場所」だった動物病院の待合室は、以前と違ったコミュニティとして活気付くでしょう。獣医師としての情報は周りの飼い主さんにとっても、とても価値のあることが多いからです。

ぜひ、皆さんの動物病院でもスタッフ全員で取り組んでいただければと思います。

著者紹介

坂上緑
坂上 緑(さかがみ みどり)
大阪ペピイ動物看護専門学校「マナーとコミュニケーション」講師。
フリーアナウンサーとして活動しながら、国際博覧会、専門教育機関、店舗、企業で接客、セルフプレゼンテーションの研修講師を務める。大阪府箕面市「北摂夜間救急動物病院」顧問。第25回動物臨床医学会スタッフセミナーで「飼い主さんと良い関係を築くために」のテーマで講演を実施。
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