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犬猫の胸部超音波検査の基礎

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日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室  小山 秀一

第1回 基本断面の描出法

ベッツワンプレス 2012春号(Vol.30)

はじめに

心疾患動物の診断では、心臓の聴診を中心とした身体検査が重要であることは、今も昔も変わらない。経験豊富な獣医師であれば、問診および身体検査からおおよその異常は把握できるといわれている。しかし、より正確な診断および病態評価には、胸部X線検査や心電図検査が必要となる。さらに、これらの情報を踏まえて心エコー検査を実施することで、多くの心疾患で確定診断が行えるとともに、病態に関する多くの情報が得られる。そこで、このシリーズでは、心エコーでの基本的な断層面の描出法とその評価ポイントを中心に症例を交えて解説する予定である。

■心エコー検査の種類
心エコー検査には、大きく分けると描出した断層面を用いて解剖学的形態・構造、大きさおよび運動性を評価する二次元断層(2D)法、心臓構造物の心周期に伴う動きを評価するMモード法およびドプラ効果を利用して血流速度や心筋運動速度を評価するドプラ法がある。いずれの方法においても、基本的に同じ超音波信号を利用し表示方法を変えているため、2D法の画像が鮮明でない場合は他の方法の画像も鮮明には描出されない。したがって、心エコー検査では鮮明な2D画像が得られるよう努力することが重要である。

図1

■心エコー検査の準備
心エコー検査では、基本的に犬・猫を横臥に保定し下側からプローブをあてるため、専用の検査台を使用する(図1)。この保定が好まれる理由は、心臓が下になった胸壁側に近づくため、肺が覆う領域が減少し心臓が描出しやすくなるためである。犬猫を検査台に保定したならば、左右で心尖拍動が最も明瞭な部位を確認する。犬猫の心エコーのウインドウ(体表から心臓まで直接超音波を送信できる部位)は、解剖学的に左右とも第3~5肋間の胸骨縁から肋軟骨接合部の領域といわれているが、この心尖拍動を確認できる部位がそれに相当する。

前述したように、鮮明な画像を得るためには超音波をできるだけ減衰させずに心臓まで送受信する必要があるため、原則的にこのウインドウ部位周囲をバリカン等で毛刈りする。特に、左胸壁では心尖部方向からのプローブ走査を行うため、毛刈りは剣状突起近くの胸骨縁まで行うことがポイントである。また、皮膚の汚れが超音波の減衰の原因となるため、十分に消毒用アルコールを浸した綿花で皮膚の汚れを落としておく。アルコール綿を使用する理由としては、皮膚の汚れを落とすだけでなく、皮脂成分を落とし水溶性の超音波用ゼリーが皮膚に馴染みやすくするためでもある。

二次元断層法における基本断面の描出法

心エコー検査の基本断面には、心臓(左室)を長軸方向に断層した長軸断面と心臓(左室)を短軸方向に断層した短軸断面がある。左室長軸像には、右胸骨縁からプローブ走査をする、左室長軸四腔断面および左室長軸断面(左室流出路長軸断面)と左胸骨縁から走査する心尖部四腔断面と心尖部五腔断面などがある。短軸断面には、右胸壁から走査する左室短軸断面と心基部短軸断面がある。

心臓の超音波検査で、見落としを少なくし診断精度を向上させるためには、常に同じ手順で基本断面を描出し、診断を進めることを推奨する。筆者が用いている系統的な画像の描出手順は、右側からのアプローチで左室長軸四腔断面→左室長軸断面→左室短軸断面→心基部短軸断面の順で進め、その後必要であれば左側からのアプローチに切り替え、心尖部四腔断面→心尖部五腔断面へと進めている。

1 .画像の標準的表示法

超音波診断装置のモニター画面に断層像を表示する場合、長軸像では画面に向かって右側に心基部、左側に心尖部がくるように表示する(図2-A)。短軸像の場合には、画面に向かって右側に頭側がくるようにする(図2-B、C)。左胸骨縁からの心尖部四腔断面では、心尖部を画面の上にして左心系を画面に向かって右側に表示する(図2-D)。常にこのような標準的な表示をすることで、目と手が連動したプローブ走査が可能となる。このような標準的な表示をするためには、プローブのマーカーを利用するのが便利である(図3)。超音波診断装置の電源を入れ、検査画面を立ち上げたとき、必ずどのメーカーの機種でも画面上のどちら側にプローブのマーカー側が表示されているかが示されている(図2)。以後の描出法の解説では、図2に示したようにプローブのマーカー側が画面に向かって右側に表示されている場合について説明する。もし、反対側に表示される装置の場合は、プローブのマーカーがこの解説と逆になるように走査する。

図2

2 .心エコー検査の基本

図3 図4

超音波診断装置と動物の配置であるが、プローブ走査は基本的に利き手で持ち片手で行うため、右利きの場合は検査台の左側に検査者が台と平行に座り、超音波診断装置が自分の正面にくるように配置する(図1)。こうすることで、左手で超音波診断装置の操作がし易くなる。プローブの持ち方は、指先でプローブの回転や方向が変えやすいように軽く握り、人差し指がプローブとともに動物の胸壁に密着できるように持つ。図4に示したような手と指の形を参考にすると、プローブ走査が容易に行える。そして、検査時には、専用検査台を乗せた台に肘を付くかまたは腕の一部が触れるようにすると安定しやすい。

心臓は胸腔内で左心系と右心系が対称に並んでおらず、右心系が右頭側よりにあり左心系が左尾側よりにある。そして、大動脈と肺動脈は心臓の頭側にある。この胸腔内での心臓構造の位置関係がイメージできると、プローブ走査がし易くなる。そして、プローブから発生する超音波は線状ではなく、イメージプレーンと呼ばれる平面で作られていることを意識する(図3)。

3 .右胸壁からの走査

図5

1 )左室長軸四腔断面(図2-A)
超音波ゼリーをプローブ表面にタップリ載せ、プローブのマーカーが犬の背中方向を向くようにし、心尖拍動が明瞭に触診できる部位の胸骨縁と肋軟骨接合部の中間にプローブを当てる。この時、プローブと胸壁の角度は約45度にする(図5)。この方法により、ほとんどの症例で長軸方向に近い心臓が描出できる。心臓が描出されたならば、ここから目的とする左室長軸四腔断面になるよう超音波ビーム方向を調節する。なお、プローブと胸壁が密着しなければ鮮明な画像が得られないため、プローブがしっかりと胸壁に当たるようにやや押し込む。この時のポイントは、人差し指が同時にしっかり触れていることであり、過度の押し込みやプローブのズレを防いでくれる。描出された心臓が鮮明でない場合は、プローブをゆっくり前後左右に移動し、鮮明に描出できる部位を探す。心エコーに限らず超音波検査では、プローブ走査時に自分の目で画像の変化が追える速さで動かすことがポイントである。

最初に描出された心臓を観察し、心基部領域の描出が不十分である場合は、超音波ビーム面をより背側に向ける(プローブのコード側を持ち上げる)。一方、心尖部領域の描出が不十分な場合には、プローブを立てるようにするか、プローブを少し胸骨縁側に移動する。心基部領域に輪切りのような構造がみられたならば、超音波ビーム面がやや頭側に向きすぎている可能性があるため、当てている位置を変えずにビーム面をやや尾側へ向けてみる。一方、心房領域が不明瞭な場合は、ビーム面をやや頭側に向け画像を確認する。左室長軸四腔断面では、扇の頂点側に右房・右室が描出され、その下に左房・左室が描出されてくる。良好な左室長軸四腔断面を得るためには、描出画像を確認しながら超音波ビーム面を頭側または尾側へ傾ける動きと、プローブマーカーを頭側または尾側方向に回転させる動きを組み合わせる必要がある。また、心尖部が上にあり心臓が立ったように描出されている場合は、プローブ位置が胸骨縁近くにあるためであり、心臓を横に寝かせるためにはプローブ位置を肋軟骨接合部よりに移動しながら、ビーム面が上を向くようにプローブを少し立てる。右心系の描出度合いは個体差が大きく、明瞭に観察されない場合がある。

犬猫とも左室長軸方向の断面を描出する場合、超音波ビームを心尖部領域からやや頭側方向に向けて走査する方法と肋間を頭側に移動しやや尾側方向に向けて走査する方法がある(左室長軸断面の図7を参照)。両者とも良好な断層像を得ることが可能であるが、個体により描出のしやすさが異なるため、どちらが描出しやすいか確認する。

図6

2 )左室長軸断面
左室長軸四腔断面からビーム面を頭側に向けていくと心室中隔上部に大動脈起始部が輪切りのように描出されてくる。その位置で、プローブマーカーを頭側に回転しながら左室流出路を描出する。プローブの回転は、親指と人差し指を中心に行うと走査部位が移動しにくい。左室長軸断面では、左房、左室と左室流出路から大動脈が描出されるが(図6)、心尖部領域からビーム面を頭側に向けた走査では、左房と左室流出路が同時に描出されにくいことが多い。そこで、プローブ位置を約1肋間頭側よりに移動し、ビーム面をやや尾側方向に向けた走査で左室長軸四腔断面を描出し、そこからプローブマーカーを頭側に回転して左室長軸断面の描出を試みる(図7)。良好な左室長軸断面の描出のためには、画像を見ながらビーム面の頭側や背側方向への調整が必要である。この時のポイントは、プローブの接触している位置が移動しないよう人差し指で固定し、回転やビーム面の方向を変えることである。

良好な画像が得られたならば、超音波ビーム面の方向を確認する。確認された方向がその動物の心臓の長軸方向であり、短軸像へ移行するときにはこのビーム面に対しプローブを90度回転させる。

3 )左室短軸断面(図2-B)
左室長軸断面からプローブマーカーを反時計方向(プローブマーカーが頭側方向)へ約90度回転させることで、左室短軸像が得られる。プローブの回転は、手首を回転させるのではなく手の中でプローブのみを回転させる。回転はプローブを持つ手の形を変えずに指先で回転させるか、左手でプローブのみを回転させるのがポイントである。左室短軸断面は、断層する部位により心尖部レベル、乳頭筋レベル、腱索レベルおよび僧帽弁レベルに分けられる。左室短軸断面が正しく描出されているかを確認するには、乳頭筋レベルで前後乳頭筋が対称に描出されているか、僧帽弁レベルで僧帽弁の前尖と後尖がフィッシュ・マウス様(魚の口が開閉するよう)に描出されているかをみる。さらに、後述する心基部短軸像(大動脈弁レベル)に移行した際に、大動脈が正円形に描出されてくれば正確な短軸像と判断する。多くの場合、プローブの回転が不足しているため、正確な短軸断面が描出されていないことがある。そこで、重要なポイントは、左室長軸断面で確認した心臓の長軸方向のビーム面に対し90度回転できているかである。描出画像を確認しながら、プローブの回転を行い描出画像の調節を行う。

図7、図8

左室短軸断面の描出では、プローブができるだけ胸壁と垂直となるように走査する(図8)。そして、各レベルに移行する際には、心臓の長軸方向に沿ってプローブを移動する。長軸像と同じ位置でのプローブ走査で左室短軸断面が描出されにくい場合は、プローブ位置を頭側に移動しビーム面がやや尾側を向くようにする。

心尖部レベルは、乳頭筋より下側であり、前後の乳頭筋が観察される位置が乳頭筋レベルである。腱索レベルは、前後の乳頭筋の先端に高エコーを呈する腱索付着部が観察されるレベルである。僧帽弁レベルは、僧帽弁前尖と後尖が描出される位置である。

4 )心基部短軸断面
心基部短軸断面は、左室短軸断面の僧帽弁レベルからさらに心基部側にプローブをスライドさせて描出する。プローブを移動する場合、胸壁から離さず画像を確認しながら行う。この時、胸壁に対しプローブを垂直にしたまま走査を行うと、多くの場合肺が重なるため画像がうまく描出できない。このような場合は、プローブの位置を僧帽弁レベルまたは乳頭筋レベルまで戻し、プローブ位置を変えないでビーム面だけを心基部方向へ向けるように走査する。ビーム面を向ける方向としては、動物の左肩甲骨を指すようにする(図9)。

図9

このプローブ走査により、まず心基部短軸断面の大動脈弁レベルが描出される。大動脈弁レベルでは、画面の中央に大動脈が正円形に描出され、その中に大動脈弁尖の接合線が観察され、大動脈の奥に左房が描出される(図2-C)。また、右心系は、大動脈を取り囲むように時計回りに、右房・右室・右室流出路から肺動脈弁が描出される。そして、大動脈弁レベルから、プローブ位置を動かさずにビーム面だけをさらに心基部方向へ傾けると肺動脈弁レベルと呼ばれる断面に移行できる(図10)。肺動脈弁レベルは、大動脈弁レベルと類似の断面であるが、肺動脈弁および主肺動脈が良好に観察でき、症例によっては主肺動脈が左右の肺動脈に分岐する部位も描出される(図11)。

図10、図11