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小動物臨床におけるリハビリ入門

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日本大学獣医外科学研究室 日本大学動物病院 整形外科・神経運動器科 枝村一弥

第3回② 他動運動、運動療法

ベッツワンプレス2010秋号(Vol.24)掲載分

運動療法:自発的な運動療法

自発的な運動療法とは、動物自身が意識下で筋肉や関節を動かして行うリハビリテーションで、整形外科疾患や神経疾患の動物の機能回復にきわめて重要な療法である。運動療法を行うことで、関節可動域の改善、麻痺肢の機能回復、筋力や筋量の増加といった効果が期待できる。これらの運動療法には、ゆっくりとした引き紐での歩行(制限歩行)、陸上・水中トレッドミルでの歩行、座り立ち運動、ジグザグ歩行、円周歩行、ジョギング、階段の昇降、カバレッティ・レール、水泳などが含まれる。これらの運動療法は、比較的に強度の高い療法なので、動物の状態を評価して無理せずに行うことが重要である。

1. 引き紐での歩行(制限歩行)
した歩行は、患者が手術や慢性疾患による衰弱から回復する上で、おそらく最も重要な運動療法である。一般的に、全ての運動療法の最初に、この運動を試みる。引き紐での歩行は、着肢の訓練、関節周囲組織の強化、筋力増強の手助け、自力歩行の訓練を目的として行う。短い紐で足元にしっかりと動物を保持して、十分に体重の負重ができるようにかなりゆっくりとした速度で歩行させる。肢の着きが悪い時には、バランスが取れるようにやさしく体を揺らしながら歩行させたり、患肢を着肢させるように工夫して歩行させる。引き紐での歩行は、 1回につき2~5分程度から開始して、最大に1回に60分まで行うことができる。

2.トレッドミル(陸上・水中)
陸上・水中トレッドミルでの歩行も、歩行のパターン化に有効である。トレッドミルとは、床が動くことで動物を強制的に歩行させることで、自力での歩行を促すことができる歩行訓練装置である。トレッドミルを用いた歩行訓練は、関節疾患や神経疾患において有効である。整形外科疾患では、股関節形成不全による変形性関節症で股関節痛がある症例や、大腿骨頭切除術や前十字靱帯断裂の術後の機能回復に特に有効である。神経疾患では、主に椎間板ヘルニアなどの脊柱疾患の歩行機能の回復に用いられている。引き紐での歩行が行えるほとんど症例で、トレッドミルでの歩行が可能である。

水中トレッドミルは、水を利用することで浮力が生じ、歩行をしやすい環境を提供することができるので、動物のリハビリテーションに汎用されている(図12)。

関節疾患の症例では、水の浮力により関節にかかる負荷を免荷することができるので、陸上よりも容易に歩行をすることができる。麻痺の症例で歩行訓練を行う際には、肢を適切に動かすことができるように、歩行動作の通りに患肢を持ち上げて、手で歩行を補助する。この時は、動物がおぼれないように、ウォータージャケットを着用して行うと安全に行うことができる。最近では動物医療用の水中トレッドミルも多く販売されており、価格帯も200万円台~1200万円台まで様々な機種がある(図12)。一部の機種では、傾斜角を変化させることもできる。トレッドミルでの運動は、5~10分程度から開始し、1週間に3~5回行うのが一般的である。

図12 水中トレッドミル。各社から様々な価格帯の機器が販売されている。A:FERNO社製、B:KEIPER社製、C:東京メニックス社製、D:ケイ・テクノ社製。最近では200万円前後の低価格帯の機器も登場している(C,D)

3.座り立ち運動
座り立ち運動(sit-to-stand exercise)は、“お座り”と起立を繰り返す運動で、人間が行うスクワットに相当する。座り立ち運動は、主に股関節と膝関節の伸筋を強化するのに有効な手法である。股関節形成不全で股関節伸展時疼痛のある症例や、膝関節の可動域制限がある症例において有効性が報告されている。健常肢で立ち上がってしまわないように、両後肢に均等に力がかかるようにして立ち上がらせるのがポイントである。この運動は、1セットにつき5~10回行い、1日に1~3セット行うことが推奨されている。

4.ジグザグ歩行・円周歩行
自力での歩行が十分に可能となったら、ジグザグ歩行、円周歩行、ジョギングといった、さらに強度の高い運動療法を開始する。これらの運動は、比較的に強度の高い運動なので、整形外科疾患では関節の安定後もしくは骨癒合後、神経疾患では十分に自力での歩行が可能となってから適応すべきである。整形外科疾患の症例でジグザグ歩行や円周歩行を行うと、患肢への体重負重を促したり、直線歩行では使用しない関節周囲の筋を強化したりすることができる。神経疾患でこれらの運動を行うと、直線での歩行と異なり体重移動と方向転換が必要とされる。その結果、障害された神経経路の再活性化、脊柱の側方への屈曲性の改善、固有受容感覚の改善といった効果が期待できる。

5.ジョギング
ジョギングとは、犬を速歩で走らせて行う療法である。これも、比較的に強度が高い運動なので、整形外科疾患では関節の安定後もしくは骨癒合後、神経疾患では十分に自力での歩行が可能となってから適応すべきである。筋力や循環器の状態を改善させる目的で、ゆっくりとしたスピードから開始する。最初は、2~3分間から開始し、20分位まで徐々に時間を延ばしていく。関節疾患で疼痛が生じた場合には、少し控えめにして鎮痛薬の投薬を行う。ジョギングは、1日に2~3回から行うことが推奨されている。

6.階段や坂道の上り下り
上記までの運動療法を行っても特に問題が生じない場合には、階段や坂の昇降を試みる。階段や坂道を利用したリハビリテーションは、筋力の増強、関節の伸長、脊柱の安定化に有効である。これらの運動は、きわめて強度が高い運動となるので、二次的な損傷や症状の再発に最大限の配慮をして治療を行うべきである。最初は、短い紐か吊り帯で動物の行動をコントロールしながら行うと良い。

階段や坂道の上りは、後肢の負重増加、股関節の関節可動域の改善、大腿四頭筋・半腱様筋・半膜様筋・殿筋群の強化に有効である。階段や坂道の下りは、前肢の筋力増強、肩・肘・手根関節の伸展とストレッチ効果があることが実証されている。一般的に、これらの療法は発症後または術後2ヵ月以上経過してから行うことが推奨されている。

7.カバレティ・レール
カバレッティ・レールとは、一定の間隔で、かつ一定の高さの棒を連続的に平行に置き、その上をゆっくりとハードルを越えるようにして行う運動療法のことである。太い木や梯子を用いても、この治療を行うことができる。カバレッティ・レールを行うことで、神経と屈筋の連動性を高めることができ、関節の関節可動域を増大させ、患肢の使用を促すこともできる。動物では、自発的に屈曲させることのできるリハビリテーションがほとんどないため、カバレッティ・レールは数少ない屈筋系トレーニングとして有効なリハビリテーションである。越える棒の高さを高くすると、より関節可動域の増大に効果的である。カバレッティ・レールは、どの関節に有効かも知っておく必要がある。カバレッティ・レールは、肩・手根・股関節にはほとんど影響を及ぼさないため、肘・膝・足根関節の関節可動域の改善に有効な方法と位置付けられている。

図13 水泳は、屈筋の強化や患肢の機能回復に有効である

8.水治療法
水治療法(ハイドロセラピー)は、水の抵抗力や浮力を利用した運動療法で、自力運動の促進、関節可動域の改善、筋力の維持または強化、起立や歩行能の改善、固有受容位置感覚の改善といった効果がある。水の物理的な特性が、これらの効果を生みだす。水の「温度」は、血流改善に影響する。リハビリテーションに有効な水温は、25~30℃と報告されている。水温が25℃以下では筋肉が硬直し、34℃以上ではすぐにのぼせてしまう。「浮力」は、運動の補助、疼痛の軽減に関与している。「水圧」は、浮腫や疼痛の軽減、筋肉の緊張、関節の安定化に寄与している。「水流」には、筋肉のマッサージ効果や循環機能の改善効果がある。水の「粘性」は、姿勢の維持、筋力の強化、関節可動域の改善に影響する。水治療法は、整形外科疾患や神経疾患の機能回復のリハビリテーションとしてきわめて有効であるため、積極的に導入すべき療法のひとつである。自宅のお風呂でも、市販のウォータージャケットを用いて水治療法を行うことができる。最近では、わが国においても水治療法を行うことができる施設が増えてきており身近になりつつある(図13)。

姿勢反応の改善に有効なリハビリテーション

図14 ダンシング。体を支えて後肢で前後左右に歩行させることで、後肢のバランス感覚を鍛えることができる。

他動運動とは、動物が自発的に身体の一部を動かすのではなく、治療を行う者が動物の身体の一部を動かして機能回復を図る方法である。整形外科疾患や神経疾患の症例においては、発症直後および手術直後から他動運動を適応することができる。他動運動は、麻痺の程度が重度な症例や、関節疾患または骨折により肢の不使用がある症例に対して、特に効果的である。これらの運動は、主に関節可動域の拡大、関節の柔軟性の改善、筋および腱の伸長、神経や筋肉の感覚能や機能の改善を目的に行われている。動物医療で行われている他動運動としては、モビライゼーション、マニュピレーション、他動的関節可動域訓練(Passive range of motion: PROM)、ストレッチ、屈伸運動、自転車漕ぎ運動、引っ込め反射の誘発といった方法が報告されている。これらの他動運動の多くは、非侵襲的で、飼い主が在宅治療プログラムの一環として行うことができる。

図15 フィジオ・ロールやスイス・ボールを用いた運動。バランス感覚の改善に有効なリハビリテーションである。 図16バランス・ボード運動。固有受容感覚の強化に有効なリハビリテーションである。 図17吊り上げ機能付き電動バランス・ボード

さいごに

今回は、動物医療でも有効な他動運動と運動療法について概説した。次回は、ついに「小動物臨床におけるリハビリテーション入門」の連載も最終回である。次は、低出力レーザー療法や近赤外線療法といった物理療法の治療目的とその効果について解説する。そして、数例の症例を提示して、各々の疾患に対するリハビリテーションの考え方と治療のコツについて解説する予定である。

参考文献

  1. Millis, D., Levine, D., Taylor, R. ed. Canine rehabilitation and Physical Therapy. W B Saunders Co. Philadelphia. U.S.A. 2004.
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  6. 枝村一弥. 小動物のリハビリテーションの現状と将来-科学的根拠に基づいたリハビリの実際-. 獣医畜産新報. 618(10):807-814. 2008.
  7. 枝村一弥. リハビリテーションの基本と考え方. In: 勤務獣医師のための臨床テクニック3. 石田卓夫監修. チクサン出版. 東京. 2009.