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犬猫の胸部超音波検査の基礎

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日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室  小山 秀一

第3回 基本的断面の評価ポイント

ベッツワンプレス 2012秋号(Vol.32)

はじめに

これまで、心エコーでの基本的断面の描出法および心エコー検査を進める上でのチェックポイントとしての形態変化について解説してきた。そこで、今回は正常な犬と猫での各基本的断面の評価法を具体的に解説する。心臓の形態変化を捉えることが、心エコー検査での第一歩であり、描出した各断面が正常であるか、または異常であるかを判断するために、今回の評価ポイントを整理しておく必要がある。心エコー検査では、断層像での評価をもとにM モード法や断層像から各種計測を行い大きさや機能を評価するが、断層像での評価と計測値での評価との相互評価によりより質の高い判断が行えるため、この基本的断面の評価が重要である。ただし、今回の内容は主要ポイントであり、すべてを充足するものでないことを予めご了承願いたい

1. 右傍胸骨左室長軸四腔断面および左側心尖部四腔断面

これらの断面では、心臓の4つの心腔(左房、右房、左室および右室)が描出されるため、それぞれの大きさの評価を行う。左室および右室の大きさは、拡張末期が最も大きく観察され、左房および右房は収縮末期が最も大きく観察される。左室腔と右室腔を拡張末期で比較すると、右室腔は左室腔の約1/3の大きさである(図1)。心室中隔は、拡張期で観察するとほぼ直線的に心尖部方向へ延びている。そして、心室中隔の弁輪部はわずかに右室側に偏位している。この両断面では、左室自由壁と右室自由壁の厚さの比較が容易であり、右室自由壁は左室自由壁の約1/2である。心室中隔は、正常な犬猫であれば左室自由壁とほぼ同じであるが、心室中隔は左室圧または右室圧が上昇するような病態では、ともに肥大を起こすため心室肥大を判定する場合は、左室自由壁と右室自由壁とで比較を行う必要がある。

図1

心房中隔はほぼ直線状に観察され、右房側や左房側に膨らんでいない。ただし、右傍胸骨左室長軸四腔断面をやや頭側よりから描出した場合には、心房中隔が右房側に偏位して観察されることがあるが、この偏位は直線的であり心房中隔が右房側や左房側に膨らんだ像ではない(図2)。心房中隔を観察していると、中央部付近の中隔壁が不明瞭となることがある(図1矢印)。これは、心房中隔の中央部が薄い線維性組織からなる卵円孔部分であるためであり、心房中隔欠損と間違えないように注意する。左房と右房の大きさを比較すると、通常左房が右房よりやや大きく観察される。

これらの断面では、僧帽弁および三尖弁の観察が容易に行える。正常な犬猫では、心室中隔で僧帽弁と三尖弁の起始部を比較すると、三尖弁の起始部がわずかに心尖部よりに観察される( 1~2mm程度)(図3)。そして、弁尖の厚さは起始部から弁尖先端までほぼ同じである。また、閉鎖時には弁尖の先端が弁の起始部より心室側にあるのが正常である。

図2, 3

2. 右傍胸骨左室長軸断面(左室流入路流出路断面)

左室長軸像で右室自由壁が明瞭に観察される場合は、左室自由壁との厚さの比較を行う。正常な犬猫では、通常拡張末期の右室自由壁は左室自由壁の約1/2である( 図4A )。したがって、右室自由壁がこれ以上厚く観察された場合は、右室肥大を示唆する所見となる。心室中隔は、ほぼ左室自由壁と同じ厚さに観察されるが、一般的に犬猫とも心室中隔壁が左室自由壁より若干厚くみられることが多い。心室腔の大きさは、拡張末期で比較すると四腔断面と同様に右室は左室の約1/3の大きさであるが、四腔断面での観察よりやや小さめであることが多い。そして、心室中隔もほぼ直線的に観察される。ただし、猫の場合は、正常でも心室中隔がわずかに右室側に膨らんでみえることがある( 図5A )。一般的に、拡張期の心室中隔が右室側に膨らんでいる場合は、左室の容量負荷が増大していると判断する。一方、左室側に心室中隔が偏位して観察される場合は、右室の容量負荷が増大しているか右室圧が上昇していると判断する。ただし、左室肥大を起こしている症例では、心室中隔の肥大のため左室側に偏位しているように観察されることもある。

図4, 5

左室流出路を観察すると、犬では心室中隔が大動脈前壁に直線的に移行し左室流出路径と大動脈弁輪径がほぼ同じであるが、猫では心室中隔上部がわずかに左室流出路側に張り出しており左室流出路径は大動脈弁輪径の約3/4の大きさとなる(図5A 、B )。したがって、猫では心室中隔上部が左室流出路側に突出しているように観察されるからといって、その所見で左室流出路閉塞と判断してはいけない。

図6

左房の大きさは、大動脈弁輪径と左房径を比較することで判断する。犬猫とも拡張末期に大動脈弁輪径と左房径を比較すると左房径がやや大きく観察され、正常犬では1~1.5倍であり、正常猫では1.7倍までであり犬よりやや大きく観察される(図4A 、5A )。ただし、この比較はあくまで大まかな評価であり、この断面の描出では大動脈の最大径が正しく描出されていな場合や、逆に左房が十分に描出されていないことがあるため、必ず他の断面での評価と合わせて判断する。

僧帽弁の観察では、正常な犬猫では僧帽弁前尖は拡張期に心室中隔に触れるくらいまで開放する( 図6 )。そして、弁の起始部から弁尖の先端まではほぼ直線的にみえ、弁尖の厚さは弁起始部から先端までほぼ同じである。拡張期に弁尖の先端と心室中隔との間が大きく離れている場合や、弁尖が直線的ではなく膨らんだりへこんだりしている場合は、左室駆出率の低下、左室拡張、重度の大動脈弁逆流や僧帽弁狭窄などを疑う。

3. 右傍胸骨左室短軸断面
図6

正しい左室短軸断面乳頭筋レベルでは、左室は正円形を呈し、乳頭筋は対称に観察される( 図7 )。左室内腔は、前後の乳頭筋が張り出しているため典型例ではマッシュルーム状を呈する。乳頭筋はほぼ同じ大きさに観察されるが、まれに乳頭筋様の小さな筋肉成分が観察されることもある。心室中隔は、左室自由壁とほぼ同じ厚さに観察される。右室は、心室中隔を挟んで三日月型に観察される。この断面で、心室中隔が平坦化して観察される場合は、右室圧の上昇または容量負荷に伴う右室拡張を示唆する所見である。心室中隔の内膜面を観察すると、正常な犬猫では左室側はスムーズな内膜面を呈するが、右室側の心内膜面は粗い肉柱や乳頭筋があるため凹凸が認められる。

また、この断面では左室全体の運動性が評価しやすい。左室の局所的運動異常がない場合は、左室の拡張と収縮運動が内膜の移動で判断できる。局所的な運動異常がある場合は、内膜の運動だけをみていると異常を見落とす可能性があるため、心筋そのものの動きに注意する必要がある。

4.右傍胸骨左室心基部 短軸断面

1 )大動脈弁レベル
大動脈弁レベルの左室心基部短軸像では、大動脈内に半月弁の弁尖接合線が観察される(俗に言う、ベンツマーク)。この断面で大動脈径と肺動脈径を比較するとほぼ同じ太さである(図8)。また、この断面は左房拡張の評価に用いられている。左房拡張は、左室長軸断面での大動脈径と左房径との比較と合わせ、この断面でも大動脈径と左房径の比較を行う。正常犬では、内径はほぼ同じか左房がやや大きく約1.6倍までであり、正常猫では左房がやや大きく観察され約1.7倍までである。しかし、この参照範囲は報告者により異なり必ずしも正確な基準ではない。左房の大きさに関しては、内径の比較より断面積での比較がより正確であるとの報告もあるため、断層面をリアルタイムに観察しながら、大まかに面積の比較をすることで左房拡張があるかを判断することも重要である。

図8

また、この断面では右室流入路および流出路が描出されているため、三尖弁を含めた流入路と流出路の形態異常の有無を判断する。

2 )肺動脈弁レベル
この断面は、大動脈弁レベルから超音波ビーム面をさらに心基部に向けた断面である。ここでは、肺動脈弁から主肺動脈さらに肺動脈分岐部が観察できる。主肺動脈は、肺動脈弁輪部から分岐部までほぼ同じ太さに観察される( 図9 )。主肺動脈の拡張が認められたならば、狭窄後拡張や肺動脈の容量負荷を疑う。

図8

まとめ

今回は、基本的断面での評価ポイントについて解説した。実際の心エコー検査では、基本的断面とともに断面を移行していく中で、異常が発見されることもある。しかし、多くの場合は基本的断面から異常が疑える場合がほとんどであるため、評価ポイントを理解しておくことが重要である。そして、カラードプラ法やパルスドプラ法および連続波ドプラ法が利用できる場合は、それらのモードで異常原因を確認することになる。特に、カラードプラ法は基本的断面の描出ができていれば、特殊な技術は必要ないため、超音波診断装置になれることで誰でも行うことができる。したがって、第1回と第2回をこの第3回と合わせてもう一度読み直して頂ければと思う。そして、より心エコー検査を身近なものに感じて頂ければ幸いである。次回は、心エコー検査の最終回となるため、実際の症例を示しながら、カラードプラ法や血流情報などを用いた診断・心機能評価について解説する予定である。